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間を置いて、やがて、マックスの戸惑いの声が返ってくる。
「何を言ってるんだ、ジン? 結局、オスカーのおっさんを助けないのかよ?」
「違う。最初にマックスがあの魔獣を撃ったときのことを覚えている? あのとき、マックスの魔力はやつに届かず、吸われた。だけど、その挙動には、ムラがあった。ぼくにはそう感じられた」
最初のマックスの放った一撃を思い返す。受け止められた光の柱は、そのままどこかへ放散されたわけじゃなかった。
最後に消えていった場所がある。
「あの角の間、ちょうどその中央、そこがマックスの魔法が最後に消えていった場所だ。逆にいえば、そこだけ最後まで残っていた。つまり、わずかではあるけれど、吸い込みきれず、溢れていたんだ。――そこがおそらく、あの魔獣の魔法のボトルネックだ。そこに、今度はピンポイントで魔力を流し込んでやればいい。きっと限界をむかえて、壊れる」
いま、その場所は視認できない。なぜなら、魔獣の角の間の空間に、オスカーがとらわれているからだ。
気づいてみると、巧妙な作戦であることがわかる。
これ見よがしに人質を掲げていただけじゃなく、自分の弱点になりうる部分も隠していたんだ。
「狙う場所は、オスカーの、ちょうど心臓のあたりだ。そのすぐ後ろが、目標だ。そこにだけに、きみの全力を注ぎ込め、マックス」
返事は、すぐにはなかった。
マックスがぼくに背を向けたまま、首を横に振る。
「……待ってくれ、ジン。わからない。それなら、オスカーを撃つことになるだろ?」
「違うよ。魔法は、イメージだ。そうだろう? オスカーに当てず、その背後を撃ち抜くんだよ。つまり、曲げればいい」
ビクリと、マックスの手が震える。
やがて絞り出した声には、諦めが滲んでいた。
「――ダメだ、できない。……お前なら、もうわかってるんだろう、ジン? 俺にそんなこと、できないってことが」
少しの間ではあるが、マックスと一緒にいてわかったことがある。
マックスは善良な男だ。そして使える魔力も膨大だ。
だけど、その魔法の不器用さ――全出力を伴う一撃しかできないこと――については、結局のところ自分の口では教えてくれなかった。
ポーズじみた尊大な態度で、ごまかすだけだった。
他のギルド請負人たちとのトラブルも、そうして生まれたものだったのだろう。
マックスのうめき声にも似た声が、続ける。
「俺に出来るのは、全力で相手を消し飛ばすだけなんだ。そうじゃないと、撃てもしない。わからないんだよ、ちょうどいい塩梅ってやつがさ。それを、これまで誰にも信じてもらえなかった。余裕ぶって、ヘマをしているんだと思われてきた。お前みたいに、器用じゃないんだよ。俺は、その、だから……できないから、自分なりに笑い飛ばしてきたんだよ」
語尾が弱く消えていくにつれ、こちらに向けられたマックスの背中も、小さくなっていく。
その弱さを、おそらくマックスは、誰にも見せられなかった。ぼくらが見てきたよりも、本当はずっと、臆病な心を持っているのかもしれない。
だけど。
「マックス、きみと組んだのは、間違いだったのか?」
ぼくのその問いかけに、マックスは背後に立つぼくに目を向ける。ぼくたちの目が合う。
「オスカーを見捨てない。そう言ったのは、きみ自身だろう、マックス? 出来ないじゃない。やるんだよ。……それにオスカーは、すでに覚悟を決めている」
驚くように、マックスの目が正面に向く。
その視線の先には、宙に固定されたオスカーの姿がある。
その声は聞こえない。
ぼくらに自分の声が届いていないのも、きっと察しているはずだ。
だがその顔は、恐怖に満たされながらも、必死で何かを繰り返している。
その口の形で、言葉は読み取れる。
「『私に構わず』。オスカーは、そう言っている。――オスカーを守りたいなら、やるしかないんだ、マックス。ぼくがガイドをする。だから、きみがやれ。覚悟を決めろ!」
マックスの右手が震える。
やがてその手がゆっくりと、しかし固く、握りしめられる。
「ジン、お前は、底の知れないやつだ。どう考えても、普通の子どもじゃない。そうだろう? そんなお前がやれって言うんだ。それなら……いや、違うな。お前がどうこうじゃない。俺が、やるんだ。そしてオスカーのおっさんを助ける」
オスカーがゆっくり、ぼくの方へと振り返る。
その目は、もう不安には揺れていなかった。
「やり方は教えてくれるんだろうな、ジン? ガイドをするって言ったのは、マジな話なんだろ」
かすかに微笑んでみせるほくがうなずいてみせたとき、それまで魔獣からの攻撃を防いでいたアスの声が届く。
「二人とも、方針は決まったか? 早く頼む。もう、長くは持たないぞ」
アスの言う通り、魔獣の魔力は広範囲に広がっており撃ち出される石の銃弾の範囲、角度はどんどん広がっている。
さらにはその魔力自体が、攻撃を弾くアスの剣を、まっすぐ伸ばせば触れてしまうほどに、目の前に迫っていた。




