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現代知識で魔力支援――魔力を感じる少年と最強エルフは世界を巡る  作者: ナカノフミト
第2章

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 アスはすでに走り出しており、ぼくとマックスもその後を追う。

 オスカーの馬車まで、せいぜい二百メートルほど。

 アスならすぐにたどり着くはずの、そのわずかな時間の後で、『ヘッドセット』からアスの声が届く。


「……まずいぞ、ジン」


 木々の間に最初に見えたのは、アスの後ろ姿だった。

 すでにぼくを追い抜いていたマックスがアスの隣に並び、息を震わせながら立ち尽くす。


 最後に合流したぼくの目に、最初に飛び込んで来たのは、ヘラジカ魔獣の姿だった。

 異形の角と、大きな体。

 そのそばで、おそらく角の一撃によるものだろう、オスカーの馬車は破壊され、中にあった荷物と共に、外れた車輪や細かな部品が地面に散っている。

 その壊れた馬車の中に隠れていたであろう、オスカーの姿はそこにはなかった。


 その姿は、魔獣と共にあった。

 大きく広がった角の間の空間、そこにオスカーは捕らえられていた。

 浮かんでおり、十字架のような体勢で、両手を空間に固定されている。

 ヘラジカ魔獣の頭のすぐ上に、オスカーの足が垂れ下がる。


 そのときのオスカーは、恐怖の表情を浮かべていた。

 ぼくたちに向けて目を見開いている。

 その口が、ぼくらに向けて動く。

 だがその言葉は届かない。

 『境目』に似た空間の断絶が、オスカーの周囲にはあるらしい。


 マックスがぼくに目を向ける。


「なぜ、オスカーのおっさんを狙ったんだ? ……まだ、無事らしいが」


 アスがゆっくりと首を横に振る。

 知性のある魔獣――例えばドラゴン――との戦闘経験が豊富なのは、アスだけだった。

 その反応でぼくもまた、魔獣の意図を確信する。


 あの魔獣は、単にはぐれたオスカーを狙ったわけじゃない。

 これは、魔獣にとっての打開策だ。


「違う。オスカーは、生かされてるんだ。……向こうも分が悪いと踏んで、狙うべき相手を変えた――あれは、人質だ」


 マックスが息をのみ、つぶやく。


「……マジかよ」


 ぼくらは膠着状態で、にらみ合う。

 アスも簡単に手が出せない。オスカーに危害が加えられるのは明らかだからだ。


 だが、魔獣の次の手はなんだ?


 そう考えたそのとき、ヘラジカ魔獣の角の間の空間から、濃い魔力がうごめきだす。

 ドロリと、粘性の液体のように、オスカーの背後の空間から下方へと、したたるように広がっていく。


 変化が訪れたのは、その魔力が、地面へと到達した瞬間だった。

 聞こえたのは、空気を切り裂く音。ブゥンと低い音が耳へと届く。

 反応できたのは、アスだけだった。キィンと鋭い音が鳴る。

 その音を聞いた後、剣を横倒しにしているアスを見て、彼女が何かを弾いたのに気づく。


「二人とも、私の後ろへ! 攻撃だ!」


 アスのすぐ背後にマックス、その後ろに体の小さいぼくがつく――その間もアスの剣は素早く動いており、剣と何かがぶつかる音が響く。


「……私の背後から、一歩も出るなよ」


 アスの剣に弾かれた何かは高速で、遠くへと、あるいは近くへと無造作に跳んで行く。

 アスのすぐ足元に突きさった、その何かを見て、敵の攻撃の正体に気づく。


「これは……地面を利用しているのか!」


 目を向けると、魔力が達した地面がえぐれていた。

 表面はまだ腐葉土に覆われているものの、内部の質量は明らかに減っている。

 空間操作の応用だ。石や砂利、あるいは破壊されたオスカーの馬車の部品を選び出し、そして銃弾のように高速で打ち出している。


「だが、この程度なら、まだ見切れる」


 アスの最小限の動きで剣を振るい、不可避の速さで迫りくる石たちを的確に撃ち落としている。

 しかし……。


「守りはいいとしても、攻め手がないぜ?」


「いや、守りも十分じゃない。魔獣の魔力、徐々に広がってる。アスがぼくらを守りきるのも限界がある。それに、……あの魔力がぼくらに自身に届いたらどうなると思う?」


「……オスカーのおっさんの二の舞か?」


「よくて、だね」


 たぶん、ぼくらを生かしておくことはないだろう。そしてそのとき、オスカーもまた、生かしておく価値を失う。

 つまりは全滅ってことだ。


 魔獣から徐々に忍び寄ってくる濃厚な魔力は、すでに二十メートル先にまで到達している。

 時間は、ない。


「ジン、引くか? 魔力を展開された今、勝ち目はあるのか? 私の背後、射線上なら、まだ何とか防げるが」


「だけど、引いたところで同じじゃないか? オスカーのおっさんが人質に取られている以上、先に手出しはできないぜ? ……まさか。アスさん、それはダメだ」


 マックスがゆっくりと首を横に振る。

 アスは答えなかったけれど、その沈黙が意味していることは明らかだった。


 オスカーを見捨てる。それならきっとアスは、あの魔獣に勝てるだろう。

 魔力を展開するスキも与えないはずだ。


「マックス、それしかないのなら、ぼくでもその道を選ぶ。オスカーは、ついさっき出会ったばかりの人間だ。仲間を犠牲にするぐらいなら、ぼくもそうする」


「……どうやらジン、お前たちと組んだのは間違いだったらしいな」


 怒りのこもった低い声が、『ヘッドセット』を通じて届く。


「早とちりしないでよ、マックス。ぼくは『それしかないのなら』と言ったんだ。他の方法は、ある」

すぐ目の前にあるマックスの背中が揺れる。


「なんだ。それなら、そうと……」


 その安心のこもった声を遮るように、ぼくは続けた。


「ただ、そのためには、マックス。きみの覚悟が必要だ。――きみの魔法で、オスカーを撃てるか?」

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