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「このままだと、ラチがあかねえよな」
食べ終わって、最初に口を開いたのはマックスだった。
食器を手早く片付けながら、ぼくに目を向ける。
「オスカーさん、あの壁に、魔法は試したのかよ?」
オスカーがうなずく。
「ええ。私の魔力は凡人レベルではありますが……炎をぶつけてみました。しかし、先ほどみた、アスさんの剣と同じです。壁に吸い込まれて、消えていきました」
吸い込まれる?
その表現にわずかに違和感を覚えていると、マックスが立ち上がる。
「なら、このマックス様レベルの大魔力をぶちまけたらどうなるか、ってとこだな。……試してみようぜ」
アスがぼくに目を向ける。
判断しかねる、というのが正直なところだった。
「もしこの現象が、魔法による結果だとしたら――この現象の解決のための最初の一歩は、何よりも魔法の主を探すことだ。違うかな」
「だろうな。だがなジン、そいつをどうやって探す? 魔力そのものを感じとるお前にだって、そいつの居場所はわかっていないんだろ?」
ぼくはうなずく。
そして、マックスの実験に反対する根拠はない。
試してみてダメなら、それから魔法の主を探せばいいし、マックスの魔力量なら、やってみて損はなさそうだ。
ぼくはうなずいてみせる。
「決まりだな」
マックスが先に立ち、先ほどオスカーが案内してくれた場所へと赴く。
森の木々の間に見える岩山には、太陽が沈みかけている。
この空間の内側と、外側の時間にズレはなさそうだ。
決して、異世界というわけではないらしい。
「下がってな」
まだ『境目』に距離があるところで、マックスが立ち止まる。オスカーが怪訝な顔をする。
「いくらなんでも遠すぎやしませんか……?」
「違うんだよ、オスカーさん。本当に、近づかない方がいいんだ。見ていればわかる」
マックスが手を見えない壁に向かってかざし、とたんに魔力が跳ね上がる。
ビリビリとプレッシャーすら感じる、膨大すぎる魔力。
そのスイッチを入れる本人にも、おそらく制御しきれていない力。
だが今、その力を遮るものも、力を調節して狙いを定めなければならない事情も、何もない。
ただ全力をぶつけて、文字通り突破口を開くだけ。
そんな状況で練り上げられた魔力は、あのレッドドラゴンを凌ぐとも思えるほどに膨大だった。
かざしたマックスの右手に光が集約され、震える。
ガクガクと揺れる右手をなんとか制御しながら、マックスがつぶやくようにぼくらへ告げる。
「それじゃあ、行くぜ……」
その魔力が放たれる一瞬前に、アスがぼくを守るように、ぼくと『境目』の間に入り込んでくる。
その後に見えたものは、光だ。
そして空気の震え。
今やその膨大な魔力の発射台となったマックスの周辺では、放たれた圧倒的なエネルギーの余波を受け、揺れる空間がピリピリと皮膚の表面に押しつけられる。
だがその衝撃は、想像したよりもずっと控えめだった。
狼を狩るときに放たれたマックスの魔法は、岩山を穿ち、そのえぐれた内部をガラスのように滑らかにしていた。相当な着弾の衝撃があったはずだ。
だが、いま感じるのは、反応の控えめさだ。
マックスの放った魔力が持つエネルギーに対し、起こった結果があまりにも少ない。
アスの振るった剣と同じだ。剣はその場に止まり、手応えもなかったらしい。
だが、ぶつけられた魔力のエネルギーは、一体どこへ消えるのか?
光が収まったとき、ぼくはアスの向こうに実験の結果を見た。
背を向けたマックスが発射の状態のままで立ち尽くしており、その向こうにある『境目』と、その向こうに見える岩山は、発射の勢いで巻き起こった土埃の向こうに、健在な姿を見せていた。
無駄だったか。
そう思ったそのとき、ぼくはその魔力の流れに気づく。
「……魔力が、吸い込まれている」
そうつぶやいたのと、ぼくの目の前に立っていたアスが急に振り向いたのは、ほぼ同時だった。
アスは即座に剣を抜き放つ。
背後にいたぼくを半ば突き飛ばすように自らの後ろへと押しやり、そして叫ぶ。
「敵襲! 背後から魔獣だ、備えろ!」




