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現代知識で魔力支援――魔力を感じる少年と最強エルフは世界を巡る  作者: ナカノフミト
第2章

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 ぼくらを先導していたオスカーが、ふと立ち止まる。


「ここが、『境目』です」


 オスカーが手を伸ばしたのは、何もない空中だった。

 その足元には苔むした腐葉土が敷き詰められており、手を伸ばした先には、荒れ果てた岩山の斜面になっている。


 オスカーの手が、宙で静止する。

 その位置は、ちょうど森の地面が乾いた岩石の表面へと変わる線上だった。


「見えないけれど、何かがあるんです。押し戻されるわけでもない」


 ぼくらは目を見合わせ、それからオスカーに倣って森と岩山の境目に立つ。


 そして手を伸ばす。

 ……確かに、妙な感触だ。押し返されるわけでもない。

 見えないだけの、固い何かにぶつかっているわけでもない。

 その先が見えているだけで、実際には空間がそもそもつながっていないような、そんな圧迫感がある。


 アスとマックスもぼくと同じように、境目に触れていた。

 そうして、マックスは顔をしかめて自分の手を見つめ直す。


「魔力は感じないのかよ、ジン? こんなの、魔法でなけりゃありえんだろ?」


「そうだろうね。でも、今はすでに魔力は残ってない。オスカーさんが閉じ込められたのは、五日前って言っていたよね。たぶんそのときに、この魔法が使われたんだ。その影響が今もまだ続いているんだろう」


「斬ってみてもいいか?」


 鞘を払うアスに、ぼくはうなずく。

 オスカーも含め、ぼくらが後退するのを確認した後に、アスは自らの剣を空間の境目に振り下ろす。

 ……だがその剣も、空中で止まる。

 何かを切り裂くでも、弾かれるということもなく、ただその先がない、そんな風に勢いを失う。

 アスの腕に反動がきた様子もない。


「妙な感触だ。剣の勢いが吸い込まれるようになくなる。……斬る対象もなければ、振る空間もない、という感じだ」


 アスが剣を鞘にしまい込むのを見た後、境目に近づいたマックスが、両手のひらで空間を押しながら、ぼくらを振り返る。


「……何でだよ。ついさっきだぞ、俺たちがここに入ってこれたのは? いや、待て……もしかして、俺たちの来たところは、例外なんじゃないか? あそこが出入り口とか」


 ありえない話ではない、と思っていると、オスカーが首を横に振った。


「三日前に、わたしは救助を諦めました。行き先は告げていたのに、誰も来なかったもので。それで、この二日をかけてこの境目を一周、歩いてみました。……残念ながらどこも、ここと同じです」


 オスカーの言葉に、ウソは感じない。

 誤認がないとすれば、答えは一つだ。


「つまり、入れるけれど、出れない。そういうわけなんだね」


 少しの間、ぼくらはその場に立ち尽くす。

 やがて、オスカーが馬車の方向へと足を踏み出す。


「よろしかったら、食事にしませんか? 私は朝食がまだでして。みなさんもいかがです?」


   ※※※


 アスが薪を割り、オスカーが魔力で火をつける――そうして出来た焚き火の煙を、ぼくは見上げていた。

 上空はほぼ葉に覆われているものの、木漏れ日も届いている。

 魔力でその葉をかき分け、煙の行く先を見つめる。


 煙は空中に伸び、そしてある高さまで来るとその場に留まりはじめる。

 それから、一方に緩やかに流れはじめる。

 風は入り込む。だが煙は出られない。


 どうやら、上方向にも逃げ場はなさそうだ。

 そんなことを考えていると、不意にアスがぼくを見下ろすようにそばに立つ。

 それから、ぼくと同じように空を見上げる。


「地面を掘っても、同じだろうな。下にも抜けられないだろう」


 アスにうなずき返す。

 球形か、四面体かはわからないけれど、とにかく三次元的に区切られているらしい。


「……さあ、みなさん。もう、こんなものしかありませんが」


 オスカーが倒れた馬車から持ち出してきたのは、ほとんどが保存食だった。

 固いパンに干し肉、漬物の類だ。


「でも、いいのかよ? こんな状況だ、食料は貴重だろ?」


 たずねるマックスに、オスカーは首を横に振る。


「いいんです。こんな状況のまま、何もできない私が長く生き延びたところで、ここから出られそうにもない。……これでも商人です。投資すべき先は、貴方がたに、です」


「恩に着るぜ」


「もしも出られたら、その恩、お返しくださいね。あと、もしもあればですが、代わりに水をいただけると助かります」


 マックスはうなずき、下げていた袋から、水の入った革袋を取り出す。

 オスカーはマックスに微笑みかけた後、じっとその顔を見る。


「しかし、マックスさん? わたしと、どこかでお会いしたことはなかったですか?」


 マックスが首をひねる。

 心当たりはなさそうだったが、どこか居心地が悪そうだった。


「……悪いが、人の顔を覚えるのは苦手なんだ。会ってるかもしれないが、記憶にはないな」


 ぼくはマックスから食料を受け取り、調理をはじめる。

 リーダーだと呼ばれたときと同じく、調理を担うのがぼくであるのを見たとき、オスカーは妙な顔をしていた。

 だがその顔も、出来た料理を食べたときには、ややほころぶ。


 保存食は、いずれも水分を失った固いものばかりだった。

 干し肉を鍋で熱し、スープにする間も、外部から魔力で肉自体に熱を加え続けた。

 パンも同様に、スープで煮込む。

 イメージは、焚き火の火種を作るときと同じ。

 ただ今回の場合は、いうなれば『電子レンジ』だ。


「この五日で、保存食にすっかり飽き飽きしていると思ってましたが、これはなかなか……」


 オスカーと同様に、アスもまた、いつもの幸せそうな顔で食事を続けていた。

 一方、マックスの表情はさえなかった。

 ぼくもまた、スープを口にしながら、考えていた。


一体ぼくらは、どうやったらこの空間から抜け出る事ができるんだろうか?

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