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現代知識で魔力支援――魔力を感じる少年と最強エルフは世界を巡る  作者: ナカノフミト
第2章

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 息を潜め、ぼくらは周囲を窺う。

 森の中は静まり返っている。

 他の動物、あるいは魔獣の気配はない。


「何か、別の獣にでも襲われたか?」


 マックスがそっとたずねてくる。

 ぼくよりも先に、アスが答える。


「違う。第一、争った跡がない。血痕もない。ただ、……妙な表現になるが、『持ち去られた』とすれば、筋は通る」


「なら、獣じゃなく大きな鳥? いや、まさかな」


「可能性としては、ない話じゃない。……だが、低いだろうな」


 アスが視線を上げる。

 森の木々はさほど濃密ではないものの、一定間隔で生えている。

 あの狼を連れ去るほど巨大な鳥が飛ぶのは困難そうだ。


「とすると、魔法か」

 

 二人の目がぼくに向く。

 ぼくは周囲には手をかざし、それから、二人へ首を振ってみせる。


「強い魔力は残っていないな。魔法だとしても、どんな魔法かもわからない」


 周囲をぐるりと見渡した後、アスの目がぼくに向く。


「ジン、どうする? 引き返すか?」


 決断には、あまり迷わなかった。

 もはや不確定要素が多すぎる。


 そうしよう、そう言いかけたそのとき、森の奥から音が聞こえてきた。

 短く、低い響きのある音。そのあとすぐに、ガタガタと何がぶつかり合う音が続く。

 森に再び静寂さが戻ったとき、ぼくらは目を見合わせる。


「ジン、今のはおそらく、人間の声だ。……『ヘッドセット』をくれ」


 アスのその求めに応じて、ぼくは自分のチョーカーとアスのイヤーカフの間に魔力の糸を張る。


「アス、気をつけて」


 うなずくと、アスはすぐに音の方向へと走り出す。

 その姿は、あっという間に森の木々の間に消える。


「俺らも行こう。ジンは念のため、俺から離れるなよ」


 マックスと共に走り出す。

 数十メートルも走っただろうか、ぼくの耳に直接、アスの声が届く。


「確認したぞ、ジン。やはり人間がいる。急ぐことはなさそうだ。だが……」


 珍しく、アスが言い淀む。

 静かな足音と、何かを確かめるような間の後に、声が続いた。


「奇妙だ。あの狼の死体が、ここにある」


  ※※※


 歩いて十分にも満たない距離で、ぼくとマックスはアスへと追いついた。


 森の中に見えるのは、横倒しになった馬車。

 近くに馬の姿はない。

 馬車のそばにたたずむ初老の男性。

 先ほどまで、『ヘッドセット』でアスとの短い会話が聞こえており、彼の名前はオスカーであることがわかっている。


 そして、馬車からわずかに離れたところに倒れ伏している、あのリーダーの狼の姿。

 アスは、その死体の様子を慎重に探っていた。

 そこまでたどり着き、ぼくは『ヘッドセット』の魔法を解く。


 近づくぼくたちの姿に気づいたオスカーが、不安げな表情の中で、笑顔を浮かべる。


「貴方がたが、アスさんの仲間、ですか。安心しましたよ、アスさんと出会えて」


 アスは、オスカーとの会話の中で、詳細に踏み込むことは避けていた。

 後から仲間が来るからそっちと話してくれと、そう口にしていた。

 ただ、オスカーの目はマックスへ向いている。

 むしろぼくには、訝しげな一瞥が向けられただけだった。


 そりゃ、そうだろう。子どもがなぜこんなところに? と思われるのも無理もない。


「俺たちが来たからにはもう安心。……と言ってあげたいところですが、状況がわからないことにはね。これは?」


「わかりません。心底、わからないのです。わたしは先ほど目覚めたところで。眠る前には、何もなかったんですが……」


 オスカーが困惑した目を狼の死体に向ける。アスが立ち上がり、ぼくらの方へと歩いてくる。


「撲殺だ。頭蓋に、一撃。足の怪我で、あの狼が素早い動きが取れなかったとはいえ、見事なものだ」


「人間の仕業じゃ、ないよね?」


 オスカーが、何らかの演技をしている可能性は捨てきれない。

 しかしアスは迷いなく首を横に振る。


「ああ。傷跡はメイスによる殴打に似ている。だが、人間がもしアレをやるとするのなら、相当な力が必要だろうな」


 とすると、オスカーへの疑惑は、捨ててもいいわけか。

 ぼくはオスカーへ目を向ける。

 初老だが、どこか腰の低い雰囲気がある。

 商人だろうか。

 ぼくにも丁寧に接する様子を見る限り、年少だということで相手にしない、ということはなさそうだ。


「あなたは、ここで何を?」


 そうたずねられたオスカーは最初に、他の二人へと目を向けた。

 言うべき相手は誰かと探ったらしい。だがそこで、マックスが口を挟む。


「ちなみに、俺たちのリーダーは、コイツだぜ」


 その言葉で、オスカーは目を見開く。

 アスとマックスへ交互に目をやり、それからぼくと目を合わせる。


「この、少年が……?」


 だが、それ以上のリアクションはなかった。

 気を取り直すように一度うなずいた後、肩をすくめて話しはじめる。


「別に、生き延びていただけですよ。……ここは、なんてことのない森だったのに、ある日、馬が怯えて逃げ出してしまったんです。馬車もこんな風になってしまいました。それから……この森に閉じ込められて、もう、五日にもなります」


「……閉じ込められた?」


 ぼくの問いかけに、オスカーは意外そうな顔をする。


「貴方たちは違うんですか? 私を助けにきたわけではなく……ならどうして、この森に?」


 すぐにぼくたちが返事をしないのを見て、オスカーの表情が徐々に失望に満たされていく。


 そうして、オスカーは狼が倒れる方向――その向こうの空間へと目を向ける。

 そこには、まばらな草木が生え揃い、そしてその葉の向こうに、岩山から届いているであろう明るい日差しが覗いていた。

 だが、その日差しにはどこか違和感がある。

 見えているけれど、届いていない。

 そんな印象がある。


 ――そうか、眩しさがないんだ。

 そう気づいてみると、何か不可思議な、空間の断絶のようなものが、その日差しと森の間にはある。


 ぼくはアス、そしてマックスと、それぞれに目を見合わせる。

 どうやら、この森にはぼくたちがまだ知らない何かがあり、いまぼくたちは、大きな問題に直面しているらしい。

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