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パチパチと、高く積んだ焚き木が音を放ちはじめる。
ぼくの火の起こし方――炎を放たずに薄い木片を振動で焦げ付かせ、そこから火を起こし徐々に大きくしていく――その方法を見ていたマックスが、不思議そうに口にする。
「ジンはずいぶん、回りくどい方法を取るんだな。もっとこう、普通に火を放たないのは、何でだ?」
「答えはさっきのアスと同じだよ、マックス。できないからだ。弱いんだ、ぼくの魔力は」
「……あの、妙な魔法は使えるのに?」
「あれも、魔力自体は大して使ってないんだ。だから、戦えない。でも、さっきみたいに援護は出来る」
起きた火に、ぼくが魔力で風を送りはじめると、徐々に焚き火だけじゃない、獣の匂いが混じってくる。
「あのリーダーの狼を追わなくてもいいのか? 逃げ切られるかもしれないぜ」
マックスからその問いを聞きながら、ぼくは炎の中にすでに折り重なっている狼たちを見つめる。
「死体を放置しておくと、他の獣や魔獣を呼び寄せるかもしれない。しかもあの森に行くとすれば、ここは、ぼくらの帰り道だ。少しでも処理をしておきたい」
そう説明をしていると、アスが処理をした狼の亡骸を引きずってきた。
皮を剥がれた狼の姿を間近に見て、マックスがぎょっとする。
アスが立ち上る炎を指さす。
「ジン、この中でいいのか?」
「ああ、投げ込んで」
「……手伝うぜ、アスさん」
アスは狼の前足を持っていた。
後ろ足をマックスが持ち、二人で勢いをつけて炎の中へと投げ入れる。
亡骸はすでに中にいた他の狼たちの死体と折り重なり、同じように燃えはじめる。
炎の向こうに見える亡骸たちに手をかざし、少しでもよく燃えるように、魔力を使う。
目を閉じて、魔力を練り上げる。空気中から酸素を濾し取り、送り込むイメージ。網膜の底に鮮やかに思い描く。
次に目を開いたときには、魔法が功を奏したらしい、炎が高く立ち上っていた。
やがて火が下火になる頃には、すでに燃えさしの中の狼たちは、判別が難しくなっていた。
脂の焦げた匂いが鼻をつく。
焼けて崩れ落ちた薪の中に、原型もよくわからない黒く残った残骸。
その狼たちの亡骸へ向けて、最後にぼくは手を合わせる。
せめて安らかに。狩ったのはぼくらだけれど、そう思わざるを得なかった。
それから、ぼくは視線を転じて、得体の知れない森を見下ろす。
「これでよし。……あのリーダーの狼、他に逃げ出した様子はない。森へ行こう」
※※※
乾燥した岩肌から、苔むした腐葉土へ。
その境目は、やはりどこか奇妙だった。水分のない岩肌に、濃い緑色の苔が貼り付けたように重なっている。
まるで、今その地に森が降り立ったばかりでもあるように。
岩肌に点々と続いていた血痕は、森の中へもも続いていた。
だが、湿った土の水分と、まばらに生える背の低い植物の影響で、ほとんど不鮮明になっている。
「追えるか? これ。感知魔法でも、厄介だぜ」
マックスが首をひねる。
ぼくが感覚に意識を集中させると、不鮮明な血痕から立ち上る魔力の震えを、かざした手の中に捉えることができた。
「何とかなりそうだよ。魔力そのものを追おう」
いぶかしげな顔をしていたマックスに告げると、彼は肩をすくめる。
「普通、感知魔法ってのは、痕跡を発見するためのものなのに……その、魔力そのものを感じ取れるってのは、一体なんなんだ?」
マックスの愚痴めいた問いを受け流しつつ、狼の魔力を追って、森の中を進む。
アスはいつの間にかぼくの隣に並んでおり、周囲を窺いながら、腐葉土を固く踏みしめていた。
「ここだと、少し、戦いづらいな。足場が悪い」
「あの狼に、トドメを刺すだけならいいんだけどね。……少し、待って」
ぼくは立ち止まり、背後を振り返る。
いままで追ってきた魔力と途切れがちに、わずかに残った血痕が、その方向に続いている。
「どうしたんだよ、ジン?」
「魔力は、ここで途切れてる。あの狼はここまでやってきた。だけど、その先がない」
「……ジン、下がっていろ」
アスがぼくの前へと進み出る。
すでにその手は、腰に下げた剣にかけられていた。




