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その強烈な魔力の放出は、まばゆい光と共に行われた。
空間をチリチリと震わせる音を伴いながら、青白い光が、狼たちの潜んでいた窪地の手前側へと着弾する。
地響きがなり、細かな爆煙が舞い上がる――まるでミサイルだ。
距離があってさえ、届く風に熱気が残る。
着弾地点は滑らかに抉られ、変質しているあたり、その威力が伺える。
だが、身を翻した狼たちの姿も、爆煙に隠れて見えにくくなる。
「あと二発。予定通り、撃っていいのか?」
マックスから焦りの声が届く。
もう撃てるのか? その疑問はあったものの、確認している時間はない。
もう作戦は破綻していた。
狼たちは散り散りに逃げはじめている。このまま奴らを逃さないためには、どうすればいい?
……狼たちは、群れをなしていた。
逃げ出すときも、合図に呼応していた。
それが、鍵だ。
「アス。狼たちの中で、最初に反応した一匹、わかる? 位置を教えて」
「ジンから見て、右方向に逃げている。そいつが最も、俊敏で素早いな」
右方向に目を向ける。
二匹の狼が逃げている。
戦闘をきって走っているやつが、そいつか。
「マックス、一発だけでいい。右方向、あの二匹の進路上に撃ち込んで。アスが追いつく時間を稼ぐんだ」
「……わかった。でも、他の五匹はいいのか?」
その質問に答える前に、アスの声が届いてくる。
「ジン、すぐに追いつける。その二匹から狩ればいいのか?」
「まずは先頭の一匹だけでいい。そしてアス、絶対にそいつは殺さないでくれ。出来るなら、ようやく走れる程度の傷がいい」
「……なるほど、な。ジンの考えていること、わかるぞ」
「撃ってくれ、マックス」
「俺には何のこっちゃわからないが、撃つぞ」
再び、マックスの膨大な魔力が膨れ上がる。
その魔力が発射されるまでのわずかな時間、ぼくは他の方向へ逃げ出した五匹の狼へと目を向ける。
いま、その狼たちは窪地を遠く去り、山の尾根の向こうへと姿を消そうとしている。
二度目にマックスの魔力が放たれ、またもや爆煙が舞い上がる。
二匹の遥かに前方に着弾したものの、二匹が共に向きを変えるその瞬間に、すでに岩陰からアスが飛び出していた。
撫でるように軽やかに剣を振るい、そしてぼくの注文通り、狼の後ろ足に鮮血が散る。高い、苦しみのこもった狼の鳴き声が漏れる。
他の五匹が足を止め、あるいは尾根から顔をのぞかせたのはその瞬間だった。
「腱を捉えた。もう奴の後ろ足には、力が入らないはずだ。……ジン、こいつがリーダーなんだろう?」
説明するまでもなく、アスにはわかっていたらしい。
手傷を追った一頭をかばうように、共に逃げていたもう一頭がアスとの間に割り込んでくる。
再び、狼のリーダーが遠吠えを発する。他の狼たちは背を向けかけたものの、すぐに振り返り、アスの方向へと走り寄ってくる。
「どうやら、リーダーを諦められないみたいだね」
「でも、それがジンの作戦通り、なんだろう? ……後は、順に狩るぞ」
他の五匹が集まりつつある中、アスはリーダーをかばった狼の攻撃を軽やかに避け、そして無造作に心臓を刺し貫く。
軽いスナップで倒れ伏す狼から剣を抜き放つと、集まってきた五頭へとアスが向きなおる。
狼たちはゆっくりと、アスの周辺を囲みはじめる。
「……なあジン、五対一だけど、アスさん、大丈夫なのか?」
ぼくが答える前に、アスの落ち着き払った返答が届く。
「問題ない」
グルグルと周辺を回りはじめた狼たちへ、アスは順に目を向ける。
それからアスが一歩前へ踏み出したそのとき、輪の外へいた狼たちのリーダーが急に起き上がり、後ろ足をかばいながらも走りはじめる。
「アス、リーダーが逃げそうだよ。そう早くはないけれど」
「ふむ。……だが、こいつらは逃げないな。私を倒さなければ、リーダーが逃げ切れないと踏んだのか。いい覚悟だ」
アスが最初の一匹へ距離を詰め、剣を振るう。
力感なく振られた剣は、その狼の首を断ち切っている。
「……家族だったんだろうな」
そんなマックスの声は、二重になって聞こえていた。
気づけば、いつの間にかぼくの隣に並んでいた。
「心が痛むよね」
アスが二匹目の狼を屠る。
アスのステップは踊るかのように軽やかで、彼女の剣が弧を描くたびに、狼たちの血飛沫が舞う。
その様子を見ながら、ぼくはすでに戦闘後のことを考えていた。
あの狼たちの革は、アスなら綺麗にはぎ取れるだろう。
牙もまた、何かの素材として売れるんだろうか。
気づけばマックスが、ぼくの顔をじっと見つめていた。
「その顔。とても心が痛むって感じがしないな。お前は何者なんだ、ジン? ……底知れないやつだ」
※※※
「終わったぞ」
『ヘッドセット』を通してアスのその声が届いてきたとき、戦闘はすでに終わっていた。
ほとんど一撃で葬りさられた狼たちが六匹。地面には、流れ落ちた狼たちの血溜まりが広がり、アスはその中でわずかな血飛沫の跡だけを体に残して立っていた。
「行こう、マックス」
ぼくの後にマックスが続く。
血の匂い――というより、獣の匂い。
残った血から感じられるわずかな魔力は、狼たちが魔獣の血を引いていた証だろうか。
窪地の縁まで降り立ったとき、ぼくは『ヘッドセット』の魔法を解き、アスのそばへと向かう。
「見事なもんだが、――あんまり、いい気分はしないな」
ピクリとも動かない狼たちを見つつ、マックスが顔をしかめる。
「マックスだって魔獣を狩るんだろう?」
「俺は、ほら、大概一撃で吹き飛ばすからな。こういう風にはならない」
アスはすでに剣を鞘に収めた状態で、ぼくたちを待っていた。
「悪い、勘付かれた。少しばかり、魔力が強すぎたな」
片手拝みをするマックスに軽く首を横に振り、アスはぼくに目を向ける。
「取り逃したリーダーを先に追うか? それともまず、こいつらの処理をする?」
周囲の状況を確認してから、ぼくはアスに答える。
「先にここで収穫品を処理してしまおう。リーダーはそう遠くには行けないだろうし……手がかりもある」
先ほど、リーダーが倒れ伏していた場所には、逃げた方向へと、点々と血痕が残っていた。
狼の魔力も感じられ、追跡は容易に思えた。
血痕を追って、窪地の斜面を登る。その縁からの視界の先には、さらなる斜面が下っていた。
その斜面に血痕が続いている。その血痕が向かっていたのは――斜面を下りきった先にある、森だった。
「こんな岩山に、森か?」
アスが首を傾げる。
「……確かに、聞いたことがねえな。道を外れた先とはいえ、こんな岩山に森があるんなら、誰かが噂していてもおかしくないぞ」
そう大きくもない森が、四方から下る斜面の最下部に広がっている。
確かに、違和感がある。そこだけ突然、現れた森のような。
周囲は乾いた岩肌だ。大きな樹木が生える余地があるとは思えない。
「何かあるかもね。……とりあえず、やるべきことを済ませてしまおう。追うのは、それからだ」




