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現代知識で魔力支援――魔力を感じる少年と最強エルフは世界を巡る  作者: ナカノフミト
第2章

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 その強烈な魔力の放出は、まばゆい光と共に行われた。

 空間をチリチリと震わせる音を伴いながら、青白い光が、狼たちの潜んでいた窪地の手前側へと着弾する。


 地響きがなり、細かな爆煙が舞い上がる――まるでミサイルだ。

 距離があってさえ、届く風に熱気が残る。

 着弾地点は滑らかに抉られ、変質しているあたり、その威力が伺える。


 だが、身を翻した狼たちの姿も、爆煙に隠れて見えにくくなる。


「あと二発。予定通り、撃っていいのか?」


 マックスから焦りの声が届く。

 もう撃てるのか? その疑問はあったものの、確認している時間はない。


 もう作戦は破綻していた。

 狼たちは散り散りに逃げはじめている。このまま奴らを逃さないためには、どうすればいい?


 ……狼たちは、群れをなしていた。

 逃げ出すときも、合図に呼応していた。

 それが、鍵だ。


「アス。狼たちの中で、最初に反応した一匹、わかる? 位置を教えて」


「ジンから見て、右方向に逃げている。そいつが最も、俊敏で素早いな」


 右方向に目を向ける。

 二匹の狼が逃げている。

 戦闘をきって走っているやつが、そいつか。


「マックス、一発だけでいい。右方向、あの二匹の進路上に撃ち込んで。アスが追いつく時間を稼ぐんだ」


「……わかった。でも、他の五匹はいいのか?」


 その質問に答える前に、アスの声が届いてくる。


「ジン、すぐに追いつける。その二匹から狩ればいいのか?」


「まずは先頭の一匹だけでいい。そしてアス、絶対にそいつは殺さないでくれ。出来るなら、ようやく走れる程度の傷がいい」


「……なるほど、な。ジンの考えていること、わかるぞ」


「撃ってくれ、マックス」


「俺には何のこっちゃわからないが、撃つぞ」


 再び、マックスの膨大な魔力が膨れ上がる。

 その魔力が発射されるまでのわずかな時間、ぼくは他の方向へ逃げ出した五匹の狼へと目を向ける。

 いま、その狼たちは窪地を遠く去り、山の尾根の向こうへと姿を消そうとしている。


 二度目にマックスの魔力が放たれ、またもや爆煙が舞い上がる。

 二匹の遥かに前方に着弾したものの、二匹が共に向きを変えるその瞬間に、すでに岩陰からアスが飛び出していた。


 撫でるように軽やかに剣を振るい、そしてぼくの注文通り、狼の後ろ足に鮮血が散る。高い、苦しみのこもった狼の鳴き声が漏れる。

 他の五匹が足を止め、あるいは尾根から顔をのぞかせたのはその瞬間だった。


「腱を捉えた。もう奴の後ろ足には、力が入らないはずだ。……ジン、こいつがリーダーなんだろう?」


 説明するまでもなく、アスにはわかっていたらしい。

 手傷を追った一頭をかばうように、共に逃げていたもう一頭がアスとの間に割り込んでくる。


 再び、狼のリーダーが遠吠えを発する。他の狼たちは背を向けかけたものの、すぐに振り返り、アスの方向へと走り寄ってくる。


「どうやら、リーダーを諦められないみたいだね」


「でも、それがジンの作戦通り、なんだろう? ……後は、順に狩るぞ」


 他の五匹が集まりつつある中、アスはリーダーをかばった狼の攻撃を軽やかに避け、そして無造作に心臓を刺し貫く。

 軽いスナップで倒れ伏す狼から剣を抜き放つと、集まってきた五頭へとアスが向きなおる。

 狼たちはゆっくりと、アスの周辺を囲みはじめる。


「……なあジン、五対一だけど、アスさん、大丈夫なのか?」


 ぼくが答える前に、アスの落ち着き払った返答が届く。


「問題ない」


 グルグルと周辺を回りはじめた狼たちへ、アスは順に目を向ける。

 それからアスが一歩前へ踏み出したそのとき、輪の外へいた狼たちのリーダーが急に起き上がり、後ろ足をかばいながらも走りはじめる。


「アス、リーダーが逃げそうだよ。そう早くはないけれど」


「ふむ。……だが、こいつらは逃げないな。私を倒さなければ、リーダーが逃げ切れないと踏んだのか。いい覚悟だ」


 アスが最初の一匹へ距離を詰め、剣を振るう。

 力感なく振られた剣は、その狼の首を断ち切っている。


「……家族だったんだろうな」


 そんなマックスの声は、二重になって聞こえていた。

 気づけば、いつの間にかぼくの隣に並んでいた。


「心が痛むよね」


 アスが二匹目の狼を屠る。

 アスのステップは踊るかのように軽やかで、彼女の剣が弧を描くたびに、狼たちの血飛沫が舞う。


 その様子を見ながら、ぼくはすでに戦闘後のことを考えていた。

 あの狼たちの革は、アスなら綺麗にはぎ取れるだろう。

 牙もまた、何かの素材として売れるんだろうか。

 気づけばマックスが、ぼくの顔をじっと見つめていた。


「その顔。とても心が痛むって感じがしないな。お前は何者なんだ、ジン? ……底知れないやつだ」


  ※※※


「終わったぞ」


 『ヘッドセット』を通してアスのその声が届いてきたとき、戦闘はすでに終わっていた。

 ほとんど一撃で葬りさられた狼たちが六匹。地面には、流れ落ちた狼たちの血溜まりが広がり、アスはその中でわずかな血飛沫の跡だけを体に残して立っていた。


「行こう、マックス」


 ぼくの後にマックスが続く。

 血の匂い――というより、獣の匂い。

 残った血から感じられるわずかな魔力は、狼たちが魔獣の血を引いていた証だろうか。


 窪地の縁まで降り立ったとき、ぼくは『ヘッドセット』の魔法を解き、アスのそばへと向かう。


「見事なもんだが、――あんまり、いい気分はしないな」


 ピクリとも動かない狼たちを見つつ、マックスが顔をしかめる。


「マックスだって魔獣を狩るんだろう?」


「俺は、ほら、大概一撃で吹き飛ばすからな。こういう風にはならない」


 アスはすでに剣を鞘に収めた状態で、ぼくたちを待っていた。


「悪い、勘付かれた。少しばかり、魔力が強すぎたな」


 片手拝みをするマックスに軽く首を横に振り、アスはぼくに目を向ける。


「取り逃したリーダーを先に追うか? それともまず、こいつらの処理をする?」


 周囲の状況を確認してから、ぼくはアスに答える。


「先にここで収穫品を処理してしまおう。リーダーはそう遠くには行けないだろうし……手がかりもある」


 先ほど、リーダーが倒れ伏していた場所には、逃げた方向へと、点々と血痕が残っていた。

 狼の魔力も感じられ、追跡は容易に思えた。


 血痕を追って、窪地の斜面を登る。その縁からの視界の先には、さらなる斜面が下っていた。

 その斜面に血痕が続いている。その血痕が向かっていたのは――斜面を下りきった先にある、森だった。


「こんな岩山に、森か?」


 アスが首を傾げる。


「……確かに、聞いたことがねえな。道を外れた先とはいえ、こんな岩山に森があるんなら、誰かが噂していてもおかしくないぞ」


 そう大きくもない森が、四方から下る斜面の最下部に広がっている。

 確かに、違和感がある。そこだけ突然、現れた森のような。

 周囲は乾いた岩肌だ。大きな樹木が生える余地があるとは思えない。


「何かあるかもね。……とりあえず、やるべきことを済ませてしまおう。追うのは、それからだ」

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