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現代知識で魔力支援――魔力を感じる少年と最強エルフは世界を巡る  作者: ナカノフミト
第2章

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「……来ないな」


 まだ時刻を告げる街の鐘の音が鳴っていないのに、アスが低くつぶやく。

 翌日の早朝、ぼくらはまだ冷えた空気の中、ギルドの門の前に立っていた。


 普段なら往来の多い道には、まだわずかな人の姿しかない。

 アスが再び、不機嫌そうにあたりを見渡す。


「ちょうどいい。このまま、あいつは置いていこう。後で何とでも説明はできる。そのあたり、ジンは得意だろう?」


 ぼくはため息をつく。

 昨夜も部屋に戻った後、一悶着あった。

 その話し合いは、まだアスの中では消化できていないらしい。


「当たり前のように遅刻するようなやつだったら、置いていってもいいよ。でも……」


「そうじゃなかったら連れて行くんだろう? そもそもジンだって、看板を貸してもらうだけだと言っていた。いまの状況はどうだ?」


「分かってるよ、アス。でも、名義だけじゃなくて、手も貸してくれる相手と組めた方がいいかと思ったんだ。……そんな相手が他に誰とも組めないとすれば、結構なことだと思わない?」


「わからないな。リスクが大きいから、誰も手を組まないんだろう? ……わかってるのか、ジン? 不測の事態に巻き込まれる危険があるのは、ジンの方だぞ」


 ぼくは頷いてみせる。


「もちろん。そしてたぶん、リターンも大きい。そのリスクとリターンが見合うかは、今回、計算してみようよ」


「あいつが時間通りに現れたら、な」


「……なら、残念だね」


 そのとき、ぼくはマックスの奇妙な魔力を感じた。

 ギルド前の大通りから見える、曲がり角の先。

 そこから、長身のマックスが大きく手を振りながら現れた。

 最初は足早に。

 やがて、表情を読み取れる距離になると、ゆっくりとその顔は微笑みに変わる。


「早かったな、お二人さん。……遅れてはいないよな?」


 そのとき、時刻をつける街の鐘が鳴った。

「ピッタリだったな。よし、さあ、三人での初仕事、さっそく行ってみようか」


 脳天気なマックスの言葉。

 視界の端で、小さくアスがため息をついた。


  ※※※


 街を出て、三時間。

 遠くへ霞んでそびえ立つ山へ向けて、アスはいつも通り無言で軽やかに、マックスはひたすらに喋りながら、ぼくは乏しい体力を使って必死に二人についていきながら、目的地へと向かう。


 その情報は『取引先』を探す副産物として、各地で得ていた。無事に看板が見つかれば、ぼくらの主な収入源になるものだ。

 すでに見つけていた、沼地に住むヒドラたちの他にも、貴重な資源の情報は得ていて損はない。


 山地に住む、フェンリルの血をひいていると噂される狼たち。

 ギルドを訪れる者の中にはそんな情報を持った請負人がいて、酔って上機嫌なときに飲み物をごちそうすると、饒舌に彼らが取り逃がした狼たちの話をしてくれた。


 素早く、群れで移動するらしい彼らを逃した話は、山地のある方角にのみ集中していた。

 彼らのエピソードを地図にマッピングしながら書き加えて行くと、その中央に浮かび上がってきた場所に、隠れ住むのに適した窪地があった。


 そしていま、ぼくらは岩山の尾根に隠れるように、その窪地を見下ろしている。

 ぼくの仮説は的中していた。はるか下でくつろぐ狼たちは小指の爪ほどの大きさしかない。

 マックスがひゅう、と口笛を吹く。


「アレだな。ジンの言ったとおりだ。どうする? さっそく、ブチかますか?」


 マックスが手を震わせる。

 興奮にウズウズしているんだろうか。

 そんな様子をアスは、苦虫を噛み潰したような顔で見ている。


「歩きづめだったし、休憩と……あと、食事にしよう」


 その言葉を聞いて、アスの顔が明るくなる。

 その表情で、ぼくはある程度、彼女の中の優先順位が理解できた気がする。


「マックス、火を起こせるか? ……いや、やっぱり、周辺から焚き木を集めてきてくれ。火は、アスが起こす。ぼくは、料理の準備だ」


 アスがうなずき、マックスは、一瞬見せた不安そうな表情を消して笑顔を浮かべる。


「合点承知だ」


 離れていくマックスの背中を、その場に残ったぼくとアスは見つめる。

 ぼくはアスの背負っていたバッグから、遠征用の食材と調理器具を取り出す。


「……マックスと一緒にここまで来てみて、どう? 少なくとも、悪いやつじゃないだろう?」


 アスは慣れた手つきで持参してきた薪を割りながら、意外そうな顔をする。


「いつ、私があいつを、悪いやつだなんて言った? 言葉に思慮は欠けるし、口数も多い。だが、本当はあいつはもっと早く歩けるはずだ。そうしないのは、ジンがいるからだ」


「彼と知り合ったときも、子どもを助けていた。誰かを放っておけない性格なのかな?」


「わからない。だけど、不快なやつじゃないのは確かだ。ただ、それでジンの危険がなくなるわけでもない。……火、着けるぞ」


「うん」


 アスがこすり合わせた木々が、火の粉から周囲の細木へ燃え移りはじめる。

 マックスが焚き木を手にして帰ってきたのは、ちょうどそんなときだった。


「……魔力すら使わず、か。器用なもんだな」


 目を向けてくるアスに、ぼくはうなずいてみせる。

 共に戦う、となれば、触れざるを得ない部分だった。


「使わず、というか、使えないんだ。私には魔力がない」


 マックスが目を見開く。


「……マジかよ。エルフなのに? ちょっと待ってくれ。それなら、アスさんはどうやって戦うんだ?」


「これで斬る」


 アスが、腰の剣をコンコンと叩く。

 その剣は相変わらず古ぼけている。

 新しい剣に新調することを提案しても、バランスに慣れるまで時間がかかるから、と以前からのものを使い続けている。


「エルフの剣士ってことか? そんなの、はじめて聞いたな。だってエルフって言ったら、普通……いや、いいか。腕は立つって、ジン、言ってたよな」


 ぼくはうなずく。


「それなら、何の問題もないじゃないか。俺なんか、魔力がありすぎて困っているぐらいだ」


 そうして大口を開けて笑うマックスを、アスはものも言わずに見ていた。

 操れるのか? と、その視線は、ぼくにはそう読み取ることが出来た。

 やがてアスは小さくため息をつく。


「魔力が、斬って分けられるようなものだったら、今すぐにでも斬り分けるのにな。……冗談だよ」


 剣に手を伸ばしつつ放たれたアスの真顔の冗談に、不安げな眼差しを向けるマックス。その表情を受けて、アスがわずかに微笑んでみせる。

 やがてぼくは、火にかけられた鍋を軽く叩いた。

 コンコン、という音で二人の目がこちらに向く。


「さあ、食事の準備をしよう。その後は作戦会議だ。……せっかく群れを見つけたんだ。まとめて狩ってしまおうじゃないか」

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