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確保した二人組を街のギルド――つまり、ヘイワードに引き渡しに行ったとき、彼はぼくとグレイの顔を見比べて、奇妙な表情を浮かべた。
「妙な組み合わせですね」
「マスター。誘拐犯二人、捕まえたぜ」
自慢げなマックス・グレイをヘイワードは奥の部屋へ通す。
治安維持に貢献する活動は、ギルドに届け出をする必要があるし、報酬ももらえることになっているらしい。
グレイが部屋の奥に消えた後、ぼくとヘイワードは目を見合わせる。
「ジンくんにも、報酬を受け取る権利はありそうですが?」
「ぼくはいい。……その代わりと言ってはなんだけど、ヘイワード、あのグレイって奴への依頼の結果を参照できるか?」
「ダメですね、最重要情報です」
「短い時間でいい。今日のアスの請け負った仕事、タダにしてもいい。足りないなら、貸し一つだ」
「それならば、……これは独り言ですが、10分ほど後に、彼の情報の再確認のために、わたしは記録を執務室に置きっぱなしにするかもしれませんね。ただ、あえて口を挟ませてもらうと、彼を『取引先』にするのはオススメしませんよ。わたしたちから見ると、ムラがありすぎる」
「そうと決めたわけじゃないさ。10分後、だな」
10分後、ヘイワードの執務室に忍び込むと、ご丁寧に机の上にファイルが置かれており、ちょうどマックス・グレイのページで開かれていた。
記録に残っているマックス・グレイの依頼結果は、たしかに、芳しくない。だが、ある傾向が読み取れる。
どうやら、グレイの魔力に関するぼくの推察はあたっていたらしい。
単純な討伐任務の成功率は高い――特に、人里離れた場所に住む魔獣の討伐なんかだと、失敗は皆無だ。
だが他の請負人との共同の仕事や、狭い場所での仕事、ただ魔獣を倒すだけじゃなく、体の一部を素材として持ち帰る依頼だと、途端に成功率は下がる。
要するに、あの強大で不安定な魔力で敵を倒す、それだけしかできないのだ。
ポテンシャルは高い。だが、制御できなければ、何の意味もない。
一方で、成功率以外には、ギルドの経歴に傷はない。
とりあえずは、十分だ。
必要な情報に目を通してしまい、さっさと退散する。
そのアイデアをアスに話したのは、彼女が依頼を終えて戻ってきた後だった。
昼食を終えた後、アスの部屋を訪れて今日の出来事を話す。
「現役のギルド請負人か。……本人の活動の邪魔にはならないのか?」
「いま、彼の仕事は干上がってるんだ。手数料を払えば、文句は言わないだろう」
実のところ、アスの存在がその原因ではある。だから、本人としてもぼくらにしても、そう悪い取引にはならないはずだ。
でも、そのことにはアスには言わない。知ればきっと、アスの方が気を使うだろう。
「それに、妙なところに気を回すようなやつでもない。それは確認済みだ」
報酬があるとはいえ、不利でも引かず、少女を助けようとするやつではある。
そしてまた、策を弄するには少しバカすぎる。
しかし、アスはまだ少し浮かない顔をしている。
「その、不安定な魔力が気になるな。少なくとも、背中を預けたい相手じゃあない」
「とりあえずは、看板を貸してもらうだけだよ。午後にでも、接触してみよう」
その日の午後、マックス・グレイの姿はすぐに見つけることができた。
もらった報酬で腹ごしらえしていたのか、大量の料理をテーブルに置き、マックス・グレイは食事を取っていた。
食事をしているだけなのに、奇妙な魔力のうねりを感じる。
それがあの膨大な、そして不安定な魔力に起因していることは、裏付けを得た今ならよくわかる。
周囲には他に人がいなかった。好条件だ。
接近していったぼくに、グレイはすぐに気づいた。それからアスへ目を向け、少し胡乱な表情をする。
「よお、少年じゃねえか。さっきは助かったぜ。そっちのお姉さんは……保護者か?」
何かを言いかけるアスを目で制してから、ぼくは首を横に振る。
「まあ、そんなとこだね。……それよりも、グレイさん。実は相談があるんだ」
「君との俺との仲だ、マックスでいいぜ。少年は? ああ、あと君らもメシ、食べるか? おごるぜ」
「ぼくは、ジン。でも食事は、いいよ。で、こっちは、……アス」
ぼくが名前を呼ぶ前に、アスは黙って席につき、食器を手に取ろうとしていた。
マックスは少し意外そうな目で、アスが食べはじめる姿を見ていたけれど、やがて目はぼくに戻る。
「それで、話ってのは?」
話の内容のコントロールが一番の課題だった。
マックスには、ぼくらを信用してもらいつつ、名義を貸してもらう必要がある。
一方、ぼくらには全てを知ってもらう必要はない。
「単刀直入に言うよ、マックス。あなたの名前を、ぼくらに貸して欲しい」
マックスは食事をする手を止め、しばらくぼくを見つめる。
アスにも目をやるけれど、彼女はすでに食事をはじめており、食べ物からもたらされる幸福感に集中しているばかりだった。
「……ジンからマックス・グレイに改名したい、ってな話ではないよな? そっちなら、別に構わないけど、違うんだろ?」
うなずいて、ぼくは説明をはじめる。
「マックス、見ての通り、ぼくは子どもだ。だけどある程度の魔法も使える。それは、さっきマックスにも体験してもらったとおりだ」
「奇妙な魔法だったな。お前と会話が出来ていた。それで?」
「ぼくはギルドと取引をしたいんだ。でも、年齢のせいでまともに契約を結べない。そこで、マックスの名前を貸して欲しい」
ほぼ、事実だ。その事実は正直なところ、知られても特に問題はない。
マックスには『糸電話』も使っていたし、ぼくの力はすでに一部がバレている。
しかし、マックスの目はアスに向く。そう、問題はアスの方だ。
「だが、お前にも保護者がいるじゃないか。アスさん、だっけ? 彼女の名前で取引でも何でもすればいいじゃねえか」
アスのことは、素直には教えられない。
珍しい、魔力のないエルフ。
しかも、ギルドとの取引に得体の知れない圧力がかけられている。
他人には知られたくない情報ばかりだ。
それに、ギルドとの関係もある。
今、ヘイワードはぼくらの側についている。だがそれは、あくまでギルドの利益を考えてのことだ。
もしもぼくらがギルドにとって不利益にしかならないと判断されたとき、マックスがぼくらに協力していたとすれば、彼もぼくらと共にギルドから切り捨てられるかもしれない。
それを、マックスには知られたくない。
だからぼくは、一番差し障りなさそうな方法を選んだ。
「アスには、事情があるんだ。だけど、それが何かは教えられない。ただし、腕が立つのも確かだ。……名義さえ貸してくれれば、必要なことはぼくらでやる。そしてマックスには手数料を払う。何なら、マックスのギルドの実績にもなる。悪い話じゃないと思うけど」
つまり、アスのことは匂わせるだけにする。ウソはつかないが、教えられないとしか言わない。
そしてそれ自体はウソでもない。
もしこの条件が飲めないとすれば、
やむを得ない。他を当たるだけだ。
マックスはしばらく宙を見ていた。
やがてじっとぼくに目を向ける。
「悪い話じゃなさそうだが、旨すぎる話だな。俺は確かに、金に困ってる。何もしないでお金がもらえるんなら、ラッキーだ。だが……」
「ぼくらのことが信用ならない?」
先読みをしたつもりだったけれど、マックスは案外そうな顔をした。
「何を言ってる、ジンのことはもう信用済みだ。あんなことに首を突っ込んできてくれるんだからな。お前と一緒にいるアスさんだって、いい人に違いない。だがな、俺が言いたいのは……何にもせず、タダメシを食らう人生で、それでいいのかってことだ」
それに何の問題が? と思うぼくと、いままさにタダメシを頬張っているアスに順番に目を向け、マックスは笑顔を浮かべた。
「話には乗るぜ。ただ、その仕事、俺にも混ざらせろ。……大体、さっきはジンに助けられたんだ。今度は俺にも助けさせろよ。力になるぜ」
そう朗らかに宣言するマックス。一方、ぼくとアスはこっそり目を見交わす。
余計なことを、とぼくは思っていた。
そして、一応しっかりと話を聞いていたらしいアスの目が、やや面倒そうに細められているのが、ぼくにもわかった。




