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現代知識で魔力支援――魔力を感じる少年と最強エルフは世界を巡る  作者: ナカノフミト
第2章

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 ぼくは状況を把握し続けるために、魔力を展開させる。

 イメージは、『糸電話』。

 糸の片方は、あのマックス・グレイの首筋へと飛ばす。


 そうしてぼくはその場を離れ、裏道の逆側の入口を探す。

 グレイの声が聞こえてくる。

 いつもよりどこかクリアじゃないのは、こいつの放つ魔力のせいか。


「……誘拐犯ってところか? おい、今ならまだ見逃してやるぜ? その子をおいて、とっとと失せな。あるいは、このマックス・グレイ様に、痛い目に合わせてもらいたいか?」


「動くな。こいつが、どうなってもい……」


 その月並みなセリフが聞こえてきたとき、ぼくは裏道の逆側の入口に検討をつけ、走りはじめていた。

 その入口へたどり着く前に、ぼくが『糸』を通じて感じたのは、突如として膨れ上がった膨大な魔力だった。


「それは、こっちのセリフだぜ? お前らは、どうなってもいいのかよ?」


 今までに感じたことのない魔力量だ。

 そして何よりも、いつ暴発してもおかしくない不安定さがある。

 ……こんな魔力を町中で放つ気か?

 ぼくもまた、その魔法の射線上へ入り込むのを躊躇しつつ、裏道に入り込む。


 二人組の男たちの背中が見えた。

 その向こうで、グレイがこちらに手のひらを向けている。

 そこに生み出されていたのは、魔力の塊だった。目で視認できるほどに密度が濃い。


 二人の男も、明らかに動揺していた。

 少女を押さえつけている方が、判断を仰ぐようにもう一人へと目を向ける。


「どうします? こんなのに狙われては、俺たちだって、ひとたまりも……」


「いや、待て。さっきこいつ、マックス・グレイと名乗ったな? ……知ってるぞ、あいつ。失敗続きの請負人だ。雑魚のゴブリンもまともに狩れねえはずだ」


 ぼくはヘイワードのグレイ評を思い返す。評判の悪い請負人。

 それなりに有名な奴らしい。


「……勝手に言ってな。そんなのは人の噂さ。これを見ても、まだそんな戯言を言えるのか?」


 グレイの手の中の魔力が更に高まり、パチパチと空中にエネルギーを放ちはじめる。

 ……だが、ぼくにとってはその魔力量の増大は、単に不安定さを増したものとしか思えない。


 そして、男たちがその不安定さを感じ取ったのかはわからない。

 しかし彼らは、素早く目を合わせる。


「……ハッタリだ。あれが本物なら、ゴブリンなんて消し飛んでるはずだ。おい、やるぞ」


 少女を捕らえている男に顎で何やら合図をしつつ、リーダー格らしい男がナイフを懐から引き出す。

 そのまま、グレイへと手をかざし、魔力の炎が放たれる。


 グレイに比べれば、大した魔力量ではない。

 その魔法を後退して交わしつつ、グレイは不敵に微笑む。


「どうやら、こいつをまともに食らいたいらしいな」 


「出来るんなら、やってみろよ。せいぜい、偽装魔法の名人なんだろう? 落ちぶれた請負人さんがよお」


 男がナイフを懐から抜き出す。

 グレイはその男にかざした手を向ける。――だが、魔法は放たれない。


「やっぱり、ブラフですよ。ロクに魔法を使えないんだ」


 少女を捕らえた男が背後から声をかける。

 後ろにニヤリと笑いかけ、リーダー格の男がグレイへとナイフを手にして迫る。


 ――潮時だ。

 マックス・グレイというあの男が何を考えているのかはわからない。

 だが形勢は、徐々に悪い方へ傾きつつあるように思える。能力を晒すのは、好ましいことではなかったけれど。


 マックス・グレイにつけた『糸電話』の一部を変化させ、彼の耳元へと声を届かせるように加工する。


「……聞こえるか、マックス・グレイ。聞こえているのなら、うなずけ」


 そう声を発しても、グレイに大きな変化は見られなかった。

 ただ、何度かコクリとうなずく様子を見て、声が届いているとぼくは確信する。


「よし。ささやきでいい。そっちの声もぼくに届く。……なぜ魔法を使わない?」


 グレイはナイフを持った男にゆっくりと迫られつつある。

 後退しながら、ぼくへと返事をする。


「……時間を稼げば、それで十分だろ? 誰かが助けに来てくれると思ってたんだよ。実際、あんたが来た。だがこれ、どうなっている? あんた、どこにいるんだ?」


 どこか状況を楽しんでいるかのような声。ぼくはその声を信じそうになる。

 だがただ一つ、それを疑うべき理由があった。


「じゃあ、何でそんなに、魔力が不安定なんだ? あんた、撃たないんじゃなくて、本当に、撃てないんじゃないのか?」


 しばらくの沈黙。

 やがて、グレイの声。


「いいから、助けろよ。そっちは、嬢ちゃんを確保できるのか?」


「やれなくはない。だけど、まだ不確定要素が多い。ぼくは通りの奥の物影にいる。見えるか?」


 マックス・グレイに手を振ってやる。感想は、一言だった。


「お前も、子どもじゃねえか」


「そのとおりだ。だがあんたを助けられる。わずかなスキでいい。あの子を確保している男から、意識をそらしたい。出来るか?」


 正直に言うと、あまり期待はしていなかった。

 失敗続きのマックス・グレイ。

 あの膨大な魔力もハッタリなんだろうと、ぼくも思いはじめていたからだ。


「……それだけでいいんならな。お安い御用だ」


 その直後、グレイが空へと手をかざす。

 そして、声高に叫ぶ。


「ハッタリだの、ブラフだの、好き勝手に言いやがって。見たいのなら、コイツを見せてやるよ!」


 そうして、魔力が放たれた。

 その膨大な魔力が作り出す、強烈な光と魔力。

 マックス・グレイの手から放たれたのは、まるで光の柱のように空へと伸びる魔力の塊だった。

 それは――あのとき見た、ドラゴンのブレスにも匹敵する濃厚な魔力で、ぼくの魔力感覚を震わせる。

 その余波を受けて、すでに『糸』は断ち切られている。

 だが、ぼくは事前にその魔法が用いられることはわかっていた。


 誘拐を企てていた男たち二人は、その瞬間、あっけに取られていた。

 二人だけじゃない。人質の女の子もまた、そうだった。

 頭上の光の柱を見上げている。だがその瞬間は、ぼくにとって何よりも好都合だった。


 誰にも悟られることなく、ぼくは女の子を拘束している男のすぐ背後に回り込む。

 ……アスにように出来たらいいのにな。

 アスならその一瞬で、二人の男を無力化出来ただろう。だけどぼくには出来ない。

 だから、違う手法を取る。男のナイフを持つ手が、女の子の首筋から離れていることを確認して、そのナイフを蹴り上げる。


 ポーン、と宙に浮いたナイフを見る間もなく、男の股間に全力の拳を叩き込む――あんまりやりたくないことだったけれど、子どものぼくにとってちょうどいい高さに狙い所があった――それからぼくは女の子に浴びせかけるように言う。


「逃げるよ!」


 一瞬、女の子は怯えたような表情を見せたけれど、同年代のぼくの姿を見て落ち着いたのか、すぐにうなずき、姿勢を低くして走りはじめる。女の子を抑えていた男は、股間の痛みに耐えつつ再び捉えようと手を伸ばすが、宙に浮いたナイフへの意識がその邪魔をする。


 結局のところ、背の低いぼくらはチョロチョロと裏道の外へとたどり着き、振り返ったときには、すでに二人の男たちはマックス・グレイと対峙していた。

 グレイの手には、再び、あの膨大な魔力量。


 ……本音を言えば、ぼくはそのとき、自分の魔力感覚が信じられなかった。ドラゴンのブレスに匹敵する魔力を放った直後にも関わらず、また同等の魔力を放つ準備が出来るものなんだろうか?

 マックス・グレイのその力は、異常なものに思えた。

 あれが本当に、落ちこぼれの請負人なんだろうか?


「もう一回聞くぜ。雑魚ゴブリンもまともに狩れないと世に噂されている、このマックス・グレイの魔法、まともにその身で受けてみるかい?」


 さっきの天へと向けた魔力の放出は、威嚇としても十分に優秀だったらしい。男たちはその場にヘナヘナと腰を下ろした。

 そりゃ、そうだろう。現代でいえば、ロケットランチャーを眼前で放つと脅しているようなものだ。


 そのとき、ぼくたちはすでに裏道の外へと退避していた。

 そんなぼくと女の子に向けて、マックス・グレイは親指を立てて笑顔を向ける。


 ぼくの頭の中には、その魔力量と同様に、疑問が渦巻いていた。

 コイツ、あのバカみたいな出力を持つ魔法を使えるのに、なぜこんなチンピラみたいなやつに脅かされていたんだ?

 しかし、あの魔力の不安定さ――まさか、あいつは『あんなの』しか出来ないのか?


 だとすると、あいつは正真正銘のピンチを迎えていた。

 なのに、その窮地を助けてくれた人間――つまりぼく――に対して、あんな堂々とした笑顔を向けられるなんてどういう了見だ?


 さらに、マックス・グレイがぼくにその人差し指を向ける。


「助かったぜ、そこの金髪の少年よ。俺の天をも震わす魔法を見たか? あんなもん、誰もが消し炭だ。だけどまあ、お前の助けがなけりゃ、俺もちょっとした困難に直面してた、ってやつだよなあ」


 そうして、あの悪人二人の目線がぼくに向く。

 何も言わなきゃ気づかれなかったのに、余計なことを言いやがって。


 そのとき、ぼくは確信した。

 コイツ、常識がない――というか、ものすごくバカなやつなんだろう、と。

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