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現代知識で魔力支援――魔力を感じる少年と最強エルフは世界を巡る  作者: ナカノフミト
第1章

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 最初に受けたのは、背中への衝撃。

 痛みの前に、視界がぐるりと回転する。


 ……蹴り飛ばされた?

 その認識と、遅れてやってきた背中の痛みがぼくを襲う。


 逃げ出すスキはなかった。

 すぐさま荒々しい力でぼくの両腕がひねり上げられる。ぼくを立ち上がらせようとするその痛みに、ぼくは強制的に従わざるを得ない。


「ジン!」


 聞こえてきたのは、アスの声だ。

 彼女は10メートルほど離れた先に立っていた。


「おっと、動くなよ、女。出来損ないのエルフが。――まさか、もう他の奴らを片付けたのか?」


 ザルディの声。ぼくの傍らに立っている。背後にはケイン。

 残っているのは、彼ら二人だけらしい。

 だがぼく自身の力で、彼らに抵抗することは不可能だろう。


「殺してはいない」


 アスの怒気をはらんだ声が答える。

 そんなこと言わなくていいのに。

 アスは素直だ。背中の痛みに朦朧としながら、そんなことを考える。

 それが彼女の美点だ。


「結構なことだ、俺たちも見習おう。ガキは殺さない。ただ、銀貨は返してもらおう。オーブは、こんなことまでさせた、手間賃ってことでいいな」


 素直なアスは、きっとその条件を飲むだろう。

 ザルディが地面に落ちていた銀貨の袋を拾い上げようとする。


「よくないに決まってるだろ」


 ぼくが答えたそのとき、ケインが強く力を込め、腕を捻り上げてくる。

 折れそうだ。

 ザルディが冷たい感情のこもった目を向けてくる。


「焼け出されたガキが、何だって?」


「ガキと出来損ないを追い込むのに、10人。火矢まで使うとは、ね。これでギルドの採算は合うのか? 焼けた家の補償も必要だろ?」


「まだ金勘定か、がめついガキだ。この状況がわかってるのか?」


「ああ、よくわかってる。出来損ないなんてバカにするギルドマスター様も、ドラゴンを狩るエルフのことは怖かったらしいな。ガキを人質にして、やっと本性を出せるのか。ゲスは小心者だと、覚えておくよ」


 ザルディがぼくをにらみつける。

 突然その手が上げられ、ぼくの口元を殴打する。

 重い痛みで、視界が揺れる。

 口の中に、血の味が広がる。

 ザルディは不気味な笑顔を見せる。

 やけに上がった口角の割に、冷たいままの目――その表情のまま、ぼくの顔に唾を吐きかける。


「口の回るガキだ、好きに言いな。ともかく、女――あんたには用はない。ただ、妙な素振りを見せたらこのガキを殺す」


 アスの、剣を下げた手がびくりと震える。

 その手から、剣が地面に落ちる。


「……これでいいな」


 ぼくはそっとため息をつく。

 『ヘッドセット』がまだあればよかったのに。アスは交渉事には慣れてない。

 人質を殺して困るのは、コイツらの方なのに。

 だから、剣なんか捨てる必要はなかった。


 ……だけど、ぼくのために迷いなく剣を捨ててくれた。

 その気持ちは嬉しかった。


「物分かりがよくて助かる。これならしばらく、このガキはウチで預かってもいいな。どうせまともな取引は出来ないんだ。このガキの世話代として、ドラゴンの牙でも持ってきてもらうことにするか。……おい、ケイン。そろそろ行くぞ」


 ケインが声をかけ、ザルディが動き出そうとする、その前に、ぼくが身をよじる。


「『まともな取引は出来ない』って、どういうことだ?」


 その問いかけに、ザルディが忌々しそうな目でぼくを見る。

 やがて、舌打ちの音。


「妙なことに気を回すな、ガキが。殺すぞ」


 脅しに過ぎない。いや、実際にそうする可能性はある。

 だけどいま、それよりも気になる言葉を、このザルディは発していた。


「『出来ない』ってことは、あんたらのギルドが自発的に決めたことじゃないな? 誰かが……ドラゴンの牙を買い取らないよう、指示していた? それとも、アスとの取引自体が禁じられている?」


 その問いかけに、答えは返ってこない。

 不意に、ザルディが接近してくる。

 何の前触れもなく、ザルディの無造作に上げた膝が、ぼくの腹に突き刺さる。


「黙れよ」


 呼吸が一瞬、止まる。それから吐き気がこみ上げ、えづく。

 地面に倒れ込みながらも、ぼくは顔をあげ、ザルディの目を見据える。


「アスからの搾取は、お前たちだけの考えじゃない。そうなんだな?」


 ザルディの反応はない。

 問いかけのリスクは、すでに感じていた。暴力で黙らせる。その先にある、コイツらが取ろうとするであろう手段は、一つだ。


 早めの対処が必要だ。

 ぼくは魔力を展開させる。


 ザルディにも、すぐ背後にいるケインにも、その魔力に気づいた様子はない。

 少しでも時間を稼ごうと、ぼくはさらに言葉を重ねる。


「なるほど、お前らもまた、ぼくたちと同じ、焼け出されたネズミってわけだな。オーブ欲しさに禁じられた取引をして、当然、記録にも残せない――必死なわけだ」


 そのとき、ザルディから強い魔力を感じる。ザルディが手を懐に入れ、ショートボウガンが抜き出される。


「……残念だ。まだ、使い道はあったのにな」


 つぶやくようにそう言ったザルディの雰囲気の変化を、ぼくは感じ取っていた。

 図星だったらしい。

 おそらく、ぼくの問いかけは、すでに踏み込んで欲しくないところまでたどり着いている。


 やろうとすることは決まっている。

 口封じだ。

 ボウガンを手にしたザルディは、ケインへ目を向ける。


「ケイン。女が少しでも動いたら、そのガキの首をかっ切れ」


 ケインがぼくの首へと腕を回してくる。

 首筋にヒヤリと触れたのは、ナイフだ。


 魔力の波動。

 矢をつがえたボウガンの弦が纏う魔力が、淡く輝く。

 ザルディがアスに狙いをつける。


「女。よけるなよ。甘んじて、死ね」


 ……タイミングは、今だ。

 ぼくはひそかに展開していた魔力を、そこで解く。

 異変は、一瞬の間の後、起こった。


「何だ? 目が、……」


 ザルディが不意に頭を振り、目をこすりはじめる。

 最初は忌々しそうに、やがて手のひらで顔をぬぐうように、少しでも視界を確保しようとする。


 だが、ぼくが仕掛けた濃厚な罠は、そんな動作では振り払えるはずがない。

 もはやボウガンで狙いをつけるなど不可能だ。


 ぼくの背後にいたケインも、ザルディと同じような、妙な動作を取りはじめていた。

 ケインは咳込んでさえいる。

 そして、もはや首筋に当てられていたナイフは外れている。


 ぼくはゆっくりと肘を上げ、それから強い反動をつけ、ケインのみぞおちに肘を叩き込む。

 大した威力はなかっただろう。それでも、奇襲は功を奏した。

 首へ回っていたケインの腕が緩んだ一瞬で、ぼくは抜け出すことが出来る。

 ケインから距離をとりながら、ぼくはザルディへ吐き捨てた。


「さぞかし辛いだろう。でも、それは報いなんだよ。むやみに火なんかつけるからだ」


 魔力のイメージは、『バブル』だ。


 ぼくの勝利条件は、2人から逃げ出すことだった。

 ただそれだけで、アスは自由に戦える。


 そのためのヒントを与えてくれたのが、つい先ほど、アスの家から焼け出された経験だった。

 熱と煙と、乾いた空気。

 とても目など開けてはいられなかった。


 ぼくの魔力では、空気中に熱や煙を直接生み出すことは出来ないだろう。

 だけどすでにある熱と煙を、必要な場所へ運ぶぐらいなら、できる。

 魔力の『バブル』――シャボン玉で熱と煙を包み込み、ザルディたちの目の前で解除した。

 ぼくのやったことはそれだけだ。


「ガキ! 貴様、また何かを……」


 ぼくの声に反応したザルディが、音だけを頼りに、ボウガンを向けてくる。

 その目はまだ開いていない。


 だが、言葉を言い終えないうちに、ザルディの動きが止まる。

 これでも戦闘経験が豊富らしいザルディは、首筋に当たる冷たい感触に心当たりがあったらしい。

 すでにアスはザルディの傍らに立ち、傷だらけの剣を彼の首筋に当てていた。


「ジン。大丈夫か?」


 アスはザルディには目もくれず、ぼくにそう微笑みかける。

 ぼくは口元に流れる血を拭った。


「まあまあ、かな。でも何度か、痛い思いをさせられたよ」


 ザルディはアスが剣を通して込めた力に応じて、地面に膝をつきはじめていた。ケインは目をこすりながら、その場に立ちつくし、恐怖に体を震わせている。


「さあ、ザルディ――ギルドマスター様、形勢逆転だ。まずはその、『取引はできない』件について、聞かせてもらおうか? あの膝蹴りぐらい、価値ある情報を頼むよ」

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