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現代知識で魔力支援――魔力を感じる少年と最強エルフは世界を巡る  作者: ナカノフミト
第1章

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 ザルディが、目を見開く。さすがに驚いたらしい。


「……どういうことだ? お前ら、何を言っている?」


「どういうことも、こういうこともないだろう? 契約書にはこう書いてある。『オーブの売却について』。だけどぼくらの持っているこれが本物のオーブであるのか、正直いうと、ぼくには確信がない。大トカゲのオーブかもしれない」


「待てよ。さっきお前たちは……」


 ザルディが全てを言い切る前に、ぼくが言葉を重ねる。


「ぼくらが確信しているのは、ドラゴンの牙だ。間違いなく本物だ。だが、オーブについてはわからないんだ。確信しているのはあんただけで、ね。……そこに認識の違いがあるようだな」


 そうして、ぼくは決定的な言葉を重ねる。


「ぼくらは大トカゲのオーブを、ドラゴンのものだと偽って売るわけにはいかない。だから、この契約は結べない」


「……それなら、ドラゴンの牙はどうなる?」


「この締結済みの契約書に書いてある通りだよ。あんたはさっき、自分でドラゴンの牙が本物だと認めたじゃないか。契約は履行されないとな。銀貨100枚、すぐに用意を」


 再び、ザルディの拳が、素早く振り上げられ、そしてカウンターの上に叩き下ろされる。

 鈍い音が静まり返ったギルド内に響く。


「ガキが。そんな理屈が通るとでも?」


 安い威圧だ。


「逆に聞こう、通らないとでも? 確かにアスはこのギルドからオーブの依頼を受けた。だから売るのはあんたたちに、だ。でも、売らないのは自由だろう?」


 返答は、すぐには来なかった。

 ぼくはケインに目を向ける。


「ケイン、ドラゴンの牙の代金、銀貨100枚だ。契約書通りの仕事ぐらい、出来るんだろう」


 ケインはザルディの顔色を伺う。

 ザルディは浮かない顔をしてみせたが、やがて、顎でぼくらを指し示した。


「払ってやれ」


「でも……」


「構わん」


 ケインがおどおどとしながらも、扉の奥へと姿を消す。

 ザルディは鋭い目でぼくを睨み続けている。

 その瞳の奥でうごめいている思考には、だいたい見当がつく。


 ケインが布の袋を持って現れる。

 カウンターに置かれたその袋が放つ音には重量感があった。


 中を改める。人々の手を介して、少しくすんだ色を放っている銀貨。

 現代の五百円硬貨よりも二周りは大きい。

 そして、重い。


 オーブの対価ほどではない。それでも、切り詰めれば1年近くはまともな生活を送れるお金だ。

 そもそもアスがもらうべきだった、正当な対価。


 中身を改めるまでもない。

 このギルドにこれ以上の不正を行う度量はないと、ぼくは確信していた。


 銀貨の入った布袋をカウンターから持ち上げようとして、バランスを崩す。

 数キロはあるだろうその袋は、子どもの体には重すぎた。

 アスが、そんなぼくを支えてくれる。


「私が持とう」


「……助かるよ、アス」


 軽々とその、数キロはあるだろう袋を持ち上げると、中を覗き込んだアスは小さく、感嘆の息をつく。


「これで、パンはいくら買えるんだろう」


 ちょっと食べ切れないほどだよ、アス。

 そう言いたい気持ちを抑えつつ、ぼくはカウンターへ背を向ける。


 すでに取引は終えた。

 もうこのギルドに用はない。そう思っていると、不意に背後から声がかかった。


「覚悟は、できているんだろうな?」


 月並みな問いかけだった。

 覚悟は、この店に入った時点で、ぼくらはすでに決めていた。


「夜道には、気をつけた方がいいとでも?」


「ここは、大きな町じゃない。このギルドは零細だが、この町のルールの一部でもある。お前がせしめた銀貨100枚は安い金じゃない。ギルドの運営にも必要な金だ。じゃあ、俺たちはどこで、その埋め合わせをするんだ?」


「そもそもが、アスから搾取して得た金だろ。そう大層なものじゃないはずだ」


「いいや。金はいつだって御大層なものだ。それを、お前は俺たちから取り上げたんだ。何があってもおかしくない」


「後悔するなら今のうちだぞ、というわけか? ご忠告、痛みいるよ」


 そう軽口を残し、ぼくらはギルドの出口へと向けて、歩きはじめる。

 ザルディから向けられる強い視線は、もはや相手にしない。


 ギルドを出た後、アスがふとギルドを振り返りながら、口にする。


「一ついいか、ジン。結局、このオーブ、売らなくてよかったのか? あの依頼も、相当な高額だったはずだ。なにせ、最難関だったからな」


 ぼくはその素朴なアスの物言いに、つい笑ってしまう。


「いいんだよ、アス。ドラゴンの牙を買い叩いていたギルドだ。そんなギルドが提示する金額が、価値に見合うとは思えない。もっといい使い道がある。そう思えるんだ」


「それは、任せる。……だが、ケインたちの敵意は感じた。私たちは、間違っていないのか?」


 素早くあたりに目を配りながら放たれたアスのその言葉に、ぼくはすぐには答えない。

 ギルドの建物へ、再び目を向ける。

 入口の門の上には看板があり、ギルド『銀の天秤』の名を示す、銀色に輝く天秤が描かれている。

 残念ながら、天秤の意味する公正さは、このギルドにはない。


「アス。ただ大人しく、誰かの言うなりになっていることが正しいとは、ぼくには思えない。……言っておくけど、パンに値する仕事がダメだ、っていうわけじゃないからね? アスはもっと、価値のある仕事をしていたというだけで」


「正当な評価を知らない、私が悪いとも言えるのか」


 アスは少し残念そうな口調でそう言う。


「違うよ、アス。君には学ぶ機会がなかっただけだ」


 アスはじっとぼくを見つめ、そっと微笑む。

 それから、不意に顔を引き締める。


「あれで終わるとは思えないな」


 そう、それはぼくも同感だ。


「問題は、どこで仕掛けてくるか、だ」


 アスが大きくうなずく。

 どうやら、ぼくらの見解は一致しているようだった。

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