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「ザルディ様、これは……いや、ニセモノに決まってますが……」
ケインは目を見開きながらも、疑わしげな声を出す。
「違う。これは、本物だ」
「本物と認めてくれるんだな。それなら、これまでにぼくらの持ち込んでいたドラゴンの牙も、本物だってことにならないか? 今まで大トカゲの骨を持ち込んでいた奴らが、ドラゴンのオーブを持っているわけがない」
ロジックとして、必ずしもそうならないのは承知の上だ。
その上で、ぼくはこのオーブの希少性に賭けている。
やつらが無理な理屈を通してまでも、このオーブが欲しいかどうかだ。
「これまで持ち込んでいたものが大トカゲの骨だとすれば、これもきっと大トカゲのオーブなんだろうし、お前たちもそう判断した。依頼を受けたのはぼくらだが、お前たちがそう判断したことについて一筆もらえるのなら、ぼくらもおとなしく引き下がろう。これまでの品は大トカゲの骨だし、これは大トカゲのオーブだ。ぼくらは依頼には応えたけれど、ギルドの判断で買い取ってもらえなかった。それなら、それでいい」
返事は、すぐにはない。
ザルディの頭の中で損得勘定の動く音が聞こえるようだ。
おとなしくそれを待つ手はない。
ぼくは踵を返す。
「どうやら、無理な交渉だったらしいな。行こう、アス。ドラゴンの牙は他に売る。……ついでに、不正な帳簿の有無についても少し、話をしてみよう」
アスの先に立ってぼくが歩く。
アスが振り返ろうとしてあたりで、ドン、と音がする。
「待て」
ザルディの声。
振り返ると、ザルディがカウンターに拳を落としている。色んな思いがその行動から透けて見える。
「わかった。そのドラゴンのオーブは本物だ。疑いようもない。……そして、ドラゴンの牙も、な」
かかった。
ぼくはあえて見せつけるようなため息をつく。
「もちろん、過去に納入したものも含めて、だよな。大トカゲの骨と記した帳簿はどうするの?」
「無知なケインの誤りだ。訂正する」
「よし。……なら、取引をしよう。契約書は2種類だ。過去に納入したドラゴンの牙4匹分と、今日持ち込んだドラゴンの牙1匹分。合わせて5匹分、銀貨100枚。もう一つ、ドラゴンのオーブ、金貨50枚。この2種類の契約書を用意してくれ」
ぼくの言葉に、ザルディの顔が歪む。
だが、その激情が外部へ漏れ出る前に、彼は冷静な表情へと戻り、ケインへ冷静な目を向ける。
「作ってこい、ケイン」
「しかし……」
「早くしろ」
ケインがカウンターの受付の奥へと引っ込む。
ザルディがぼくを睨みつけるが、それ以上何も言わない。
ケインは、思ったよりもずっと早く戻ってきた。ケインから渡された書類を見たザルディがぼくへとその書類を提示する。
渡された4枚の契約書はやや質の悪い紙でできている。
ドラゴンの牙に関するものが2枚。オーブに関するものが2枚。
いずれも2枚作成し、お互いが1枚ずつ保管する内容になっている。
書き込まれている内容は、現代日本のものとそう変わらない。
一番違うのは、紙そのものに魔力を感じることだ。何らかの魔法がかかっているらしい。
おそらく、魔力で紙を保護し、その契約内容を物理的に守っているのだろう。
ざっと目を通す。
金額は確かに、ドラゴンの牙、5匹分の代金として銀貨100枚。
オーブの代金として金貨50枚になっている。
特に問題はなさそうだ。
「内容に相違ないな」
ぼくはうなずく。
そして、4枚の契約書をザルディの方へと押しやる。
「サインを」
傍らにあったペンをザルディが手に取る。
記載欄は現代日本で言う、甲、乙、そして日付。
甲と日付の欄をザルディが埋める。
ペンを走らせるたびに、魔力がその筆跡を追い、紙の上へ文字を固定する。
それから、ザルディはぼくの方へと4枚の契約書を押しやる。
ほくは4枚の契約書を受け取りながら、アスに目を向ける。
「さあ、アス。これにサインを」
「私でいいのか?」
アスがペンを手に取る。ぼくが差し出した最初の2枚に、アスはサラサラとサインをする。
優雅なその筆跡の後を契約書上の魔力が追う。
ぼくは決して目を向けなかったが、ザルディの視線は感じていた。
すでにサインされた2枚のうち、1枚をカウンターの上へと戻す。
「じゃあ、これはアスが保管しておいて。ぼくだと、心もとない」
アスはうなずき、契約書を懐へとしまい込む。
そこまでたどり着くと、ぼくはふう、と息を吐いた。
ここまで、何とかこぎつけた。
そんな思いが強かった。
残る2枚の契約書に、もう一度目を通す。
ウソはない。
金貨50枚。この世界では数千万円にも匹敵する金額。
魅力がないといえば、それもまたウソになる。
だが……。
そのお金が、ぼくらの居場所を保証してくれるわけではない。
オーブの売買に関するその契約書には、サインをせず、そのままぼくの懐へとしまう。
「じゃ、この2枚については、後で検討させてくれ」




