第64話 天界で
さて、今夜は……。
「いらっしゃい。」
リーフェだ。
「他には……、いらっしゃらないね。」
「そうね……、わっぷ。」
「はい、なでなで。」
「やっと自発的に撫でてくれたわね。」
「流石にしつこいかなって。
大丈夫感が出てきたし。」
「しつこかった?」
「そうじゃなくて、僕が。」
「そっちか。
今日は天界に行くわよ。」
「え? 天界?」
「シュライザルが来たらミカエル様が連れて来いって。」
「孫じゃないんだから……。」
「年齢的には結構離れてるんじゃない?」
「孫にもならないね。」
「そうね。」
笑いながら最奥の部屋へ。
太陽がまぶしい。
「手でもつなぐのかい?」
「併翔出来るから大丈夫よ。」
「やや、高度な技。」
「じゃ、行くわよ。」
ふわりと浮かんで一気に空へ。
離れていく地面が高さを感じさせて少し恐ろしい。
天界。
「アルメルスさんに怒られないかな。」
「シュライザル!来たのか!」
「アルメルスさん。」
「そっちは師のリーフェルだな?」
「えぇ。」
「ミカエル様の執務室へ案内しよう。」
「あら。」
執務室。
「ここだ、俺は入れないんでな。
じゃあな。」
「ありがとうございました。」
扉をノックする。
「シュライザルとリーフェですね、どうぞ。」
中に入るとミカエルが片眼鏡を上げる。
「早かったですね。」
「こんばんは。」
「リーフェ、綬輪式……とまではやれませんが
天使の輪を渡します。」
「いただけるんですね。」
ぽん、とリーフェの頭に輪が現れる。
「リーフェの輪っか、ハートついてない? 可愛いね。」
「なんでこんなに可愛らしいヘイロー……。」
「縮んでますからね。
宿主に合わせてある程度は変化します。
少々……、子供っぽいですね。」
「思ってましたのに。」
「これ、つついても大丈夫なんですか?」
「一般的に触れませんよ?」
「あ、触れないんだ……、知らなかったな。」
「シュライザルにはこちらの……、ノートパソコンなんですけど。」
「メモリ替えましたよね?」
「起動しないんです。」
「……データは、保全されましたか?」
「起動しているときに抜かりなく。」
「見ても?」
「是非。」
ACはついてる、電源オン。
ANGELってロゴが出るの可愛いなこれ。
どういうメーカーなんだろう。
まぁ夢に期待してもね。
と、画面が暗くなり電源が切れないまま再起動がかかり再びロゴ表示。
「……何かをしないと壊れないのは分かっていますが、
心当たりもなく。
もうお手上げなんです。」
「これは、再起動とか電源断でたまたま壊れたと思います。
よく見るものですからそんな不安な顔なさらないでください。」
「直らなければ、システムの入れ直しでも構いません。」
「多分直りますね。」
「……え? 直るんです……か?」
「専門的な言い方ですと、ブートローダー。
分かりやすく言うと起動ファイルの破損ですね。
で、明晰夢でここにウィンドウズのインストールUSBメディアがあります。
これを使いたいんですけど、挿しても構いませんか?」
「大丈夫です。」
メモリを挿して起動順位を変えて起動。
インストールをしたいわけじゃないので、選択を変えて
コマンド画面に。
「うわ、黒画面に白文字。
壊れた?」
「リーフェ、ここから直すんだよ。」
「この画面すっごい抵抗ある。」
「僕も一昔前まではそうだったよ。」
手元のスマホでコマンドを調べながら一行ずつ打ち込んでいく。
全三行。
三行目でエラーを吐いた。
「なんかアクセス拒否って書いてない?」
「確かこれも、こうしてあぁしてー。」
コマンドを打ち込んでいく。
「何をしているのかサッパリだわ。」
「データ保管装置を読みに行って、
切り分けたデータごとに表示して、
該当の切り分けデータの選択をしているところですよん。」
「シュライザルは何でそんなことを知っているんですか?」
「いやー、僕が出来るわけじゃないんですよ。
先人の知恵を探してるだけなので……。」
「その知恵がこれに該当することすら分かりませんね……。」
「まぁ、出来る人に押し付けちゃいましょ。
お、終了しましたね。
EXITコマンド終了して再起動かけますー。」
と、ANGELロゴが過ぎる。
ウィンドウズが起動する。
「ほ、本当に直ってしまいました……。」
「システム入れ直したほうがすっきりはするんですけどね。
ただ、環境の再構築もなかなかに大変じゃないですか。
直る以上はこれでいいと思います。
起動ファイルの再インストールをしただけですので
おかしなことはしてませんよ?」
「信じていますから。
シュライザルには感謝しかありませんね。」
「いやー、これを自発的に気づいてやれたらかっこいいんですけどねぇ。
どうしても借り物になってしまいます、えぇ。」
「パソコンになると結構化け物よね、あなた。」
「リーフェ、そりゃないんじゃない?」
「ふむ。
データは全て残ってますね。」
「中身はいじってませんからね。」
「ありがとうございました。」
「いえいえ。」
「リーフェ、お話したいことが。」
「なんでしょう。」
「ウリエルを破ったそうですね?」
「あー……、シュライザルの力を借りて偶然に?」
「なんでも電気ナマズの石の力をビームサークルにしたとか。」
「それもシュライザルに。」
「……あ。」
「ミカエル様?」
「すみません、客人なんて滅多にありませんので失念しておりました。
お紅茶でもお出ししましょうか。」
「いいですのに。」
テーブルにポンと紅茶が出てくる。
3人で飲んでいると。
「リーフェ、実力ではどうでしたか?」
「飛翔に拙いところがあり、ウリエル様には及びません。」
「まぁそこは慣れでしょうね。
リーフェの位置としまして、結構高いところにいますよ。」
「そうなんですか?」
「ウリエルを破りましたからね。
ただ、シュライザルにも位置がついていますが。」
「へ?僕?」
「どことは言いませんよ。
ひっくり返ってしまいますから。」
「そうですか。」
「そもそもパソコンを直すという考えがありません。
シュライザルに師事いただくまで右クリックを知りませんでした。」
「不便じゃありません?」
「知ると不便でした、とは思うんですけどね。」
すーっと紅茶を飲んでいるミカエルとリーフェ。
「ミカエル様、最近忙しくないです?」
「あなたのせいですよ、シュライザル。」
「へ?」
「あなたが現れたことで天界情勢が変わっておりましてね。」
「あら、そんなにシュライザルって大きいんですね?」
「リーフェ、その通りです。
パソコンが直ったこともそうですが、存在がイレギュラーです。
夢から天界にアクセスする人間なんていませんからね。」
「あれ? 僕天使じゃないですよ?」
「ですから大変なことなんです。
天界に人間が、それも認められた人間がいるんです。」
「ミカエル様の求心力の低下になっていませんか?」
「っ。」
驚いたのかミカエルのピアスが揺れる。
「……ふふ。
大丈夫ですよ。
まさかそんなことを気にしていただけるとは。
あまり公式には言えませんが、
ウリエルの気持ちも仕方ないんでしょうね。」
「そのウリエル様はどうされてます?」
「哨戒任務に就いています。」
「罰とか受けてませんよね?」
「シュライザルが嫌がりますからね。
あの子をあんまり甘やかさないでください。
結構調子に乗ってますからね。」
「ねぇリーフェ、僕ってそんなに変わってる?」
「結構ね。」
「最近妻をないがしろにしてないだろうか……。」
「そうだとしてもそこもね。」
「どこ?」
「治そうとするでしょ、あなた。」
「いなくなったら困ります。」
「既婚者の余裕ってやつね。
女の子ってそういうのに弱い。」
「他を見んのですが。」
「そこもなのよ。」
「よーわからんなぁ……。」
今日は天界で一日過ごした。
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