第8話:横須賀の完全制圧と、次なる戦場へ
「バ……バカな……! 横須賀沖の超大型種が、出現から一秒で消滅した……!?」
爆煙が立ち込める横須賀基地の沿岸陣地。
双眼鏡を構えたまま固唾をのんでいた指揮官や自衛隊員たちが、信じられないものを見たように言葉を失っていた。
1周目の世界。
この横須賀は、突如として海中から現れた『海王種』と、それに続く空からの大軍勢によって文字通り壊滅させられた。
防衛ラインは一瞬で崩壊し、首都圏への侵攻を許す決定的な引き金となった場所だ。
だが――今回は、ここに未来を知る俺がいる。
「指揮官、呆けている暇はありませんよ。本番はここからです」
俺の静かな声に、指揮官がハッと正気に戻る。
「本番……!? 今の超大型種以上の奴が来るというのか!?」
「いいえ、数量の暴力です。空からの第2波……来ますよ」
空を見上げる。
曇天の雲を切り裂くように、数十、数百という赤黒い光の帯が降下してくる。
音速を超える速度で飛行する『最速種』と、周囲をなぎ払う光線を放つ『照射種』の混合大部隊だ。
隊員たちに激震が走る。
「く、来るぞ!! 迎撃体制――」
「指示は不要です。全員、伏せていてください」
『―――――』
ドクン!!
脳が限界を超えて加速し、世界から音が消える。
『クロノ・ヴィジョン』が完全発動した。
雲を割って降り注ぐ、数百の怪物たち。
だが、俺の視界の中では、それらは巨大な水槽の中をゆっくりと沈んでいく粘土細工のようにしか見えない。
(降下パターンは1周目と完全に一致。左上方から順に、第1小隊、第2小隊……)
敵の出現位置も、降下速度も、回避軌道も、全て俺の頭の中に叩き込まれている。
対物ライフルを構え、スローモーションの世界で淡々と指を動かす。
(一発)
――ズドンッ!
(二発)
――ズドンッ!
(三発)
――ズドンッ!
空中で『最速種』の羽の根元が破裂し、次々と海へ叩き落とされる。
『照射種』が光線を放つために喉元を膨らませた瞬間、その充填中のコアへ正確に徹甲弾を叩き込む。誘爆を起こした怪物が、周囲の仲間を巻き込んで大爆発を起こす。
射撃、排莢、次弾装填。
その一連の動作に、一切の無駄も迷いもない。
『―――――』
カチ、と世界が通常の速度へと弾け飛んだ。
ドカドカドカドカガアアアンッ!!!!
空を埋め尽くしていたはずの第2波の群れが、まるで目に見えない巨大な壁に激突したかのように、上空で次々と爆ぜ、黒煙を上げて海へと墜落していく。
ほんの数十秒前まで絶望の渦中にあった横須賀の空が、一瞬にして静寂を取り戻した。
「全滅……!? たった一人で、第2波の空中大部隊を……全部撃ち落としたというのか……!?」
腰を抜かした指揮官が、あいた口が塞がらない様子で俺を見つめている。
周囲の自衛隊員たちも、もはや驚愕を通り越して恐怖すら交じった眼差しで、スーツ姿の俺を仰ぎ見ていた。
だが、俺に勝利の余韻に浸っている余裕は微塵もなかった。
(よし……横須賀の防衛はこれで完了だ。だが――)
俺はすぐさま対物ライフルを置き、腕時計に目をやる。
『16:45』
(ここからが、本当の時間との勝負だ……!)
1周目の記憶が脳裏を駆け巡る。
横須賀への第2波とほぼ同刻、人類の目を横須賀に向けさせている隙に、敵の『真の主力』が別の場所へ降下したのだ。
――茨城県、大洗海岸。
あそこに降下する超巨大地下掘削種を今すぐ叩かなければ、関東全域の地盤が崩落し、数百万の人間が地底へと飲み込まれる。
「顧問! どこへ行かれるのですか!?」
立ち去ろうとする俺に、指揮官が叫ぶ。
俺は振り返りもせず、待機させていた防衛省の高速ヘリへと走り出した。
「横須賀の残党処理は皆さんにお任せします! 俺はこれから――大洗へ向かいます!」




