第7話:横須賀防衛戦と「リスキル」
「ほんとうに……本当に来るのか、ここに……!?」
横須賀基地の沿岸陣地。
海風が吹き荒れる中で、自衛隊の現場指揮官が双眼鏡を覗き込みながら固唾をのんでいた。
半信半疑のまま緊急配置された重砲兵部隊と対空車両の列。
その最前線、土嚢が積まれた特設射撃拠点に、俺――佐々木達也はいた。
スーツの上から防弾ベストを羽織り、用意させた対物ライフル(12.7mm対物狙撃銃)を構える。
重厚な金属の感触と重量感が手にしっくりと馴染む。
「佐々木顧問! レーダーには何の反応もありません! 本当に埼玉ではなく、この海に来るというのですか!?」
無線越しに叫ぶ指揮官の声。
「焦らないでください。あと『10秒後』です」
俺は腕時計の秒針を見つめながら、静かに息を整えた。
1周目の世界。
横須賀沖から突如として現れた体長五十メートルを超える超巨大怪物『海王種』。
奴は海中から音もなく出現し、防衛線が整う前に凄まじい熱光線で基地ごと壊滅させた。
だが、今の俺には「出現する正確な時間」と「完璧な降下座標」が分かっている。
「5、4、3、2、1……」
ゼロ。
ゴオオオオオオオッ!!
雲を突き破り、横須賀沖数百メートルの海面へ、灼熱の火の玉が高速で落ちてきた。
海面が巨大な水柱を上げ、水蒸気が爆発的に広がる。
「出、出たぁあ! 本当に来たぞ!!」
「レーダーに映らなかった巨大影! 水深30メートルから急速浮上してきます!!」
悲鳴のような報告が無線を飛び交う。
海面がドバッと割れ、巨大な甲殻と不気味な赤い発光器官を持った『海王種』が、そのおぞましい巨体を現そうとした――その瞬間。
『―――――』
ドクン!!
脳が熱沸し、爆風も、水飛沫の粒子も、全ての時間がピタリと静止した。
『クロノ・ヴィジョン』完全発動。
水面から顔を出しかけた巨大な怪物。
その口が出現し、熱光線を照射するために内部のコアが赤く発光し始めた瞬間――。
(あそこですね。出現直後の『エネルギー充填中』が、一番装甲が薄い)
ノロノロと開いていく怪物の大口。
その奥深く、剥き出しになった赤く光る『核』。
風速、潮風による屈折、12.7mm弾の弾道下降。
1周目の知識と超高速計算が組み合わさり、完璧な射線が頭の中に引かれる。
(出現した瞬間に狩る。ゲームの基本)
スローの世界で、俺は静かに引き金を引いた。
――ズドンッ!!
対物ライフルが凄まじい反動とともに火を噴く。
超大型の徹甲弾が、水飛沫を置き去りにして怪物の開いた大口へとまっすぐに吸い込まれていく。
着弾。コアに直撃。
『―――――』
カチ、と世界が通常速度へと弾け飛んだ。
ドゴォオオオオオオンッ!!!!
「「「「!?!?!?!?」」」」
出現した瞬間の怪物の体内から、凄まじい大爆発が巻き起こった。
熱光線を撃つために体内に溜め込まれていた莫大なエネルギーが、俺の一発によって内部誘爆を起こしたのだ。
咆哮を上げる暇すらなく、五十メートルの超巨大な体が内側から粉砕され、膨大な肉塊と水柱となって海へと弾け飛ぶ。
……しーんと静まり返る横須賀基地。
出現から、わずか『1秒』。
人類を滅亡の淵に追いやるはずだった超大型種は、海面に顔を出した瞬間に撃ち取られた。
「……え?」
「な……何が起きた……?」
「怪物が出現したと思った瞬間に……爆発して消えた……!?」
呆然と双眼鏡を取り落とす指揮官。
隊員たちは何が起きたのか全く理解できず、ただ口を開けて海を見つめている。
俺は熱くなった対物ライフルの薬莢を排出(ジャム解除)し、肩の泥をポンポンと払った。
「よし、出待ち成功。……これで第一波のボスクラスは撃破」
無線に向かって冷静に告げる俺の声だけが、静かな基地に響き渡っていた。




