第5話 世界最速の狙撃手
三頭。
同時に襲ってくる。
『キシャアアアアアッ!!』
「ひぃっ!」
課長たちの悲鳴が響く。
だが。
ドクン!!
クロノ・ヴィジョンが発動した。
世界が止まったように遅くなる。
三頭の怪物。
左。
中央。
右。
攻撃の軌道が、すべて見える。
(左は右前脚。中央は正面。右は――少し角度を変えれば、まとめて撃てる)
俺は一歩だけ動いた。
左の鎌が、スーツの裾すら掠めずに通り過ぎる。
次に首を数センチ傾ける。
二頭目の爪が空を切る。
さらに半歩。
三頭目の攻撃も外れる。
まるで、怪物たちのほうが俺を避けているようだった。
(さて)
俺は銃を構える。
一発目。
――ズドン!
二発目。
――ズドン!
三発目。
――ズドン!
すべて同じ場所。
羽の根元。
弱点を撃ち抜く。
ドクン。
世界が元に戻った。
『ギシャアアアアアッ!!』
三頭の怪物が同時に体勢を崩す。
ドガァン!!
ドゴォン!!
三体が地面へ落下した。
静寂。
誰も声を出さない。
警察官も。
自衛隊員も。
逃げていた市民も。
全員が俺を見ていた。
やがて、一人の現場指揮官が震えながら近づいてきた。
「き、君……何者だ?」
「佐々木達也です」
「所属は!?」
「食品メーカーの営業二課です」
「……は?」
「平社員です」
指揮官が絶句した。
「いやいやいや! そんなわけあるか!!」
「本当ですけど……」
「三頭の超高速種を一人で撃ち落としたんだぞ!?」
周囲からも声が飛ぶ。
「特殊部隊の人間か!?」
「自衛隊の特殊作戦群じゃないのか!?」
「米軍の狙撃手か!?」
俺は困った。
本当にただのサラリーマンなのだ。
ただ――
俺には、未来を知る力がある。
そして。
この世界を滅ぼした怪物が、俺には止まって見える。
空を見上げる。
雲の向こう。
さらに大量の侵略者が迫っていた。
一周目。
俺たちは何もできなかった。
逃げることしかできなかった。
だが、今回は違う。
俺は銃を握り直した。
(勝てる)
そう確信した。
この力があれば。
この未来を知っている俺なら。
――人類は、滅びない。
後に人々は、俺をこう呼ぶことになる。
『世界最速の狙撃手』
それが、人類反撃の始まりだった。




