第2話 人類滅亡三年前
「おい佐々木! 業務時間中に爆睡とは、いいご身分だな!」
頭上から降ってきた怒声。
俺は弾かれたように顔を上げた。
「……課長?」
目の前にいたのは、営業二課の課長――山本。
見慣れたオフィス。
蛍光灯。
パソコン。
電話の音。
「なんだそのボケた顔は! 昨日の日報も出てないぞ!」
課長の怒鳴り声が聞こえている。
だが、俺はそれどころではなかった。
(……戻ってる?)
震える手を見つめる。
銃を握っていない。
傷もない。
ただの、サラリーマンの手。
俺は慌ててパソコンの右下を確認した。
『2023年7月21日 15:42』
「……三年前」
息が止まった。
(三年前に……戻ってる?)
夢なのかと思い、頬を叩く。
痛い。
現実だ。
そのとき。
机の端からボールペンが落ちた。
「あっ――」
反射的に手を伸ばす。
ドクン。
脳の奥が熱くなった。
世界が、再び遅くなる。
落下するボールペンが、空中で止まったように見えた。
俺はそれを掴む。
カチッ。
世界が元に戻った。
「……やっぱり」
あの死の直前に覚醒した力。
『クロノ・ヴィジョン』。
時間を止める力じゃない。
俺の思考と感覚だけが、異常な速度に加速する。
そして俺は知っている。
今日、このあと何が起こるのかを。
(侵略者が来る)
18時。
都心上空に、巨大な流星群が現れる。
世間はそれを隕石だと思う。
だが、その正体は――侵略者の卵。
「……まずい」
俺が立ち上がろうとした、その瞬間だった。
大型モニターの映像が切り替わる。
『緊急ニュースをお伝えします』
オフィスが静まり返った。
『本日15時45分頃、太平洋上空で、レーダーに捕捉できない謎の高エネルギー物体群が観測されました』
(早い……!)
一周目より、予兆が早い。
『物体群は現在、急速に降下中。首都圏へ――』
「みんな、逃げろ!」
思わず叫んだ。
「ここは危険だ!」
「佐々木!」
課長の怒声。
「何を騒いでる! まだ何も起きてないだろうが!」
「違う!」
俺は窓の外を見た。
「来るんだ!」
その直後。
バリバリバリバリッ!!
空気そのものを引き裂くような衝撃波が、街を揺らした。




