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『侵略者(バグ)の動きがコマ送りに見えます 〜絶望の未来から戻った平社員、世界最速の狙撃手として人類を救う〜』  作者: 水原伊織


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第1話 人類滅亡の最後の一秒

空を覆い尽くしていたのは、絶望の数そのものだった。


金属とも生体ともつかない無機質な甲殻。

音速を超えて飛び交う、無数の『侵略者』。


かつて高層ビルが立ち並んでいた都心は跡形もなく崩れ落ち、黒煙と炎だけが空を染めている。


「……また一人、やられたか」


泥と硝煙にまみれた防衛陣地で、俺――佐々木達也は荒い息を吐いた。


三年前まで、俺はどこにでもいる普通のサラリーマンだった。


食品メーカーの営業二課。

毎日のノルマと上司の叱責に追われ、仕事が終われば缶ビールを飲んで眠る。


そんな、どこにでもいる平社員。


だが、三年前のあの日。


空から『侵略者』が降ってきた。


文明はわずか一年で崩壊した。


そして三十代半ばだった俺も、一般徴集令状一枚で戦場へ放り込まれた。


『本部より全隊へ! 第七防衛線が突破された!』


『重戦車大隊、全滅!』


『嘘だろ……!? あの巨大種を止められる兵器なんて、もう――』


『来たぞ! 上空から最速種――バグ・スプリンターだ!!』


無線の悲鳴が途切れた。


次の瞬間。


ドォンッ!!


凄まじい衝撃波とともに、“それ”が俺たちの陣地へ降り立った。


五メートルを超える巨大な昆虫。


赤い複眼。

鋭い鎌のような脚。

音速を超えて飛び、人間を一瞬で肉塊に変える悪魔。


「ひっ――!」


隣にいた若い兵士の首が、一瞬で宙を舞った。


恐怖で足が動かない。


怪物の複眼が、泥に這いつくばる俺を捉える。


鎌が振り上げられた。


(死ぬ――)


その瞬間。


脳裏に、強烈な後悔が押し寄せた。


(もっと早く気づいていれば……)


(あの日、侵略者の兆候に気づいていれば……!)


(もっと早く対策していれば、人類は――!)


悔しい。


怖い。


死にたくない。


その感情が限界を超えた瞬間。


ズキンッ!!


脳の奥で、何かが弾けた。


焼けるような激痛。


そして――


『――――』


世界から、音が消えた。


「……え?」


目の前まで迫っていた怪物の鎌が、止まっている。


いや。


止まっているように見えるだけだ。


ほんのわずかずつ、ゆっくりと動いている。


羽ばたき。

舞い上がる泥。

空気の歪み。


すべてが、コマ送りの映像のように見える。


(世界が……遅い?)


違う。


世界が遅くなったんじゃない。


俺の思考が、世界より速くなっている。


怪物の身体が見える。


甲殻の隙間。

関節。

筋肉の動き。


今まで見えなかった弱点まで、はっきりと理解できる。


(……今なら、避けられる)


そう思った瞬間、猛烈な眩暈が襲ってきた。


(くそ……意識が……)


視界が暗くなる。


意識が、深い闇へ沈んでいく。


――これが、人類最後の日。


そして。


「……おい、佐々木!」


「おいってば!」


バンッ!!


机を叩く音で、俺は跳び起きた。

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