第16話:絶対防衛要塞の起動と、新たな脅威
その頃――日本。
深い山々に抱かれた栃木県日光市では、人類の歴史上かつてない規格外の超大型国家プロジェクトが、不眠不休で進行していた。
『日光東照宮・絶対不可侵要塞拠点』の建造である。
本来であれば、日光市全域を覆い尽くすほどの巨大要塞の建設には、何十年もの歳月と膨大な予算、そして各省庁や地権者、国際社会との煩雑な調整が必要不可欠だった。
だが、人類の存亡が数か月単位で脅かされている今、政治の停滞や国同士のしがらみ、権利関係など気に病んでいる猶予は一秒たりともなかった。
「防衛省、国土交通省、ゼネコン各社、全資材を日光へ集中させろ!」
「海外のエイジス支援企業からの重機受け入れ完了! 24時間交代制で作業を継続する!」
かつて佐々木が「大洗の超巨大地下掘削種」を出陣直後に撃ち取ったおかげで、この地の強固な地盤は完璧に死守された。
さらに、古くから強大なエネルギー(霊脈)が集まるとされる日光東照宮を中心に、最新鋭の対空レーダー網、要塞砲、重装甲防壁、さらには自動迎撃システムが息つく暇もなく構築されていく。
民間企業も政府も自衛隊も、すべてが一つとなって突き進む。
日本は今、人類反撃の『絶対不可侵の要塞』を完成させようとしていた。
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ところ変わって、エジプト・ギザのエイジス補給拠点。
「くぅ〜〜〜っ! やっぱ日本のビールって、めちゃくちゃ美味いんだな……!」
ピラミッドの影が伸びる野営地の折りたたみ椅子で、俺はクーラーボックスから取り出した冷えた缶ビールを煽り、深く息を吐き出した。
女王アリを撃破した後の砂漠の熱気の中で飲むビールは悪くないが、やはり飲み慣れた日本の麦芽のキレと喉越しは別格だ。
「おいおい佐々木、エジプトの地で日本の缶ビールを嬉しそうに飲むのは君くらいだぞ」
エイジスの現地スタッフが苦笑いしながら呆れている。
激闘を終え、ようやく訪れた束の間の休息。
このまま二、三日はのんびり砂漠の風に吹かれて過ごしたいところだったが――
ピピピピッ! ピピピピッ!
俺のポケットの中で、防衛省からの緊急通信端末が甲高いアラーム音を鳴らした。
(……はい、現実逃避終了)
缶ビールを飲み干すと、端末の通話ボタンを押す。
『佐々木顧問! 大変です! 今すぐ日本へ戻ってください!』
受話器の奥から飛び出してきたのは、すっかりお馴染みとなった山本課長の悲鳴に近い声だった。
「どうしました課長、今度はどこです?」
『大……大阪です! 大阪湾の臨海部に、これまでにない大規模な『侵略者』の影が発生しました! 沿岸の商業施設や港湾部がパニック状態です!』
「大阪湾、ですか……」
俺は空になった缶をギュッと潰し、立ち上がった。
1周目の記憶が頭を掠める。
大阪湾からの大規模侵攻――あそこには、水陸両用の超大型種と、膨大な数の群れが潜んでいたはずだ。
「分かりました。すぐ向かいます。……あ、課長」
『な、なんですか!?』
「移動用のヘリに、キンキンに冷えた缶ビールを追加で積み込んでおいてください」
『そんなもん後にしてくれぇええ!!』
山本課長の叫び声を背に、俺はエジプトの砂を払い、新たな戦場――大阪へと向けて走り出したのだった。




