第13話:帰還した平社員と、地球規模の戦局
「あ、うん……日報とかいいから……」
営業二課のデスク前。山本課長は顔をひきつらせ、力なくそう言った。
大洗での激闘を終え、夕方のオフィスにひょっこりと戻ってきた佐々木。
彼が「出張の業務報告と日報を書きに戻りました」と爽やかに告げてきたのだが――問題はその背後だった。
佐々木の左右には、身長ふたメートルを優に超える、隙のない眼光をした筋骨隆々の黒人男性が二人、ボディガードのように直立している。
米軍特殊部隊の最精鋭から直々に派遣されたという、完全装備の超弩級シークレットサービスだ。
「いいんですか? 直帰扱いにしていただけるなら助かりますが」
「うん……て、いうか……」
(なんなんだよその護衛は!? なんで営業二課の平社員が国賓級のVIPみたいになって帰ってきてんだよ!?)
喉まで出かかった叫びを必死に呑み込み、山本課長は心の中で「何も言えねえ……」と呆然と天を仰いだ。
先ほどまで「小銃一丁で化け物を無双し、ロケランで超巨大種を粉砕した男」に、日報の提出を迫れる上司などこの世に存在するはずがなかった。
――その頃、市ヶ谷の防衛省本部。
巨大な作戦指令室のメインモニターには、全世界の痛ましい惨状が映し出されていた。
『北米地区、第三波を感知! シカゴ防衛線が突破されました!』
『アフリカ戦線、通信途絶! 拠点が次々と孤立しています!』
惨劇は日本だけで起きていたわけではない。
地球全土において、同時に『侵略者』の降下攻撃が展開されていたのだ。
アメリカ、イギリス、フランスといった高い軍事力を持つ先進国は、自前の重兵器と航空戦力を投入してどうにか泥沼の抵抗を続けている。
しかし、装備や資金に乏しい途上国や中小国は、圧倒的な物量と超スピードを誇る怪物の群れに抗う術もなく、日ごとに領域を蹂躙され続けていた。
「このままでは、個別に撃破されて人類は滅びるぞ……」
防衛省の最高幹部たちが、重苦しい表情でモニターを見つめる。
日本は『佐々木』という規格外の存在と、彼の持つ未来の知識のおかげで、横須賀と大洗という最悪の拠点を死守することに成功した。
だが、世界全体で見れば、人類は依然として滅亡の淵に立たされているのだ。
「これは、一国の問題ではない。人類と怪物との、生存を賭けた最終戦争だ」
防衛事務次官が、固い決意とともに拳を握りしめた。
「国境も、政治的思惑も、すべて捨てろ。各国と緊急で連携を取り、地球規模の統合部隊を設立する」
世界各国の精鋭兵器、そして何より――『世界最速の狙撃手』となった佐々木達也を中核に据えた、国を超えた地球防衛機構。
滅びゆく運命に抗うための、人類反撃の旗印が、今まさに掲げられようとしていた。




