第12話:大洗の決着と、ロケランのフィナーレ
「片腕を吹き飛ばされた……!? あんな巨大な化け物の腕を、ライフル一発で……!?」
上空のヘリから見下ろす特殊部隊の隊長は、叫ぶことすら忘れ、ただ戦慄していた。
超巨大地下掘削種が海の真ん中で狂ったようにのたうち回り、凄まじい津波を起こしている。
だが、地上に立つ佐々木は一切動じていなかった。
(さて……とどめといえば、やっぱりこれだな)
俺は無線機を取り出し、上空のヘリへ冷静に要請を出した。
「隊長、RPGを投下してください。速攻で頼みます」
『な……RPGだと!? ああ、分かった! 今すぐ落とす!!』
ヘリのハッチが開き、防護クッションに包まれたRPG-7と予備の対戦車高爆弾が、パラシュートとともに砂浜へ投下されてきた。
ドサリ、と足元に落ちてきたロケットランチャーを拾い上げ、熟練した動作で弾頭をセットする。
その時だった。
「ギシャアアアアアアアアッ!!!!」
片腕を失い、死に体となった超巨大地下掘削種が、最後のあがきと言わんばかりに海を割り、俺に向かって猛烈な速度で肉薄してきた。
一万トンを超える巨体が、津波と破片を撒き散らしながら迫る。
あまりの圧迫感に、後方の自衛官たちが「ひいっ!」「もうダメだ!」と悲鳴を上げた。
だが――激しい怒りと暴走によって、怪物はついにその『最大の隙』を晒した。
胸部の装甲が完全に開き、赤紫色の巨大な核が、隠すこともなく剥き出しになっている。
『―――――』
ドクン!!
思考が極限まで加速し、『クロノ・ヴィジョン』が世界を完全な静止状態へと閉じ込める。
目の前に迫る、山のような怪物。
剥き出しになった発光器官。
その真ん中に、俺はロケットランチャーの照準をぴたりと合わせた。
(これで……1周目の地盤崩落も、数百万の犠牲も、全部なかったことになる)
スローモーションの世界で、俺は唇の端をふっと吊り上げた。
「じゃあな」
カチ。引き金を引く。
シュボオオオオンッ!!
白煙とともに射出されたロケット弾が、静止した空気の中を一直線に飛翔していく。
剥き出しの核の真中央へ、寸分の狂いもなく着弾する瞬間を見届けながら――。
『―――――』
カチ。時間が通常速度へと跳ね返った。
チュドガアアアアアアアアアアンッ!!!!!!
大洗の海と空を染め上げる、閃光と超巨大な爆発。
内部から核を完全破壊された超巨大地下掘削種は、断末魔を上げる暇すらなく、その巨大な身体を内側から崩壊させていった。
木っ端微塵に砕け散る漆黒の甲殻。
波打ち際へと降り注ぐ、黒い肉片と体液の雨。
ドバアアンと大きな水柱が上がり、やがて大洗の海岸線には、穏やかな波の音だけが戻ってきた。
「……粉々だ……」
ヘリの隊長が、ぽつりと呟いた。
「あの超巨大な化け物が……跡形もなく消え去った……」
砂浜に立つ俺は、使い切ったRPGを肩から下ろし、ふぅと息を吐き捨てた。
(これで、大洗の掘削種は完全撃滅。日光東照宮の地盤も死守された。……よし)
防衛省の要請に応え、関東を、そして日本を救った一人の平社員。
俺はスーツの襟を整えると、呆然と立ち尽くす特殊部隊と自衛官たちに向かって、いつもの営業スマイルを向けた。
「お疲れ様です。……それじゃあ、俺はそろそろオフィスに戻って日報を書かないといけないので、これで」
「「「いや帰るんかい!!????」」」」
大洗の海岸に、隊員たちの完璧に揃ったツッコミが木霊したのだった。




