7 いよいよ突入
疲れていたからかなあ。大好きな七巳と一緒のお布団にくるまっていたというのに、エッチな気持ちがあんまり起こらずにぐっすり眠ってしまった。
いつものように潜っていた布団から頭を出すと、すぐそこに七巳の顔があった。
七巳はまだ眠っているようだ。
こ、これはファーストキッスのチャンスではないか。
どさくさ紛れに舌入れしてやるぞ。
七巳の唇の奥に、いよいよ突入だ!
僕がゆっくり唇を近づけてベロを出した時、残酷にも七巳の眼が開いた。
「駄目! キスは私に勝ってからでしょ」
すいっと七巳の顔が遠のいた。
「ええー、そんなあ。舌入れないからさあ」
そう言う僕の乳首を七巳はくいっとひねる。
あん。僕の声が我ながら色っぽく響いた。
「ちぇっ、いよいよ突入だと思ったんだけどな」
僕は着替えながら愚痴ってしまった。
「突入は天狗の里が先だよ。いよいよだからね。気合入れるよ」
僕の目も気にせずに七巳は上半身裸になってブラを替えた。
おお、割とおっぱいあるな。
僕より大きい。ま、それはいいんだけど。
後ろ向きになってパンツも替えている。
うわ。可愛いお尻。うふふっと思ってしまう。
本当の男ならこういう時、押し倒して勃起したあれをぶっすりといくんだろうな。
ぶっすり行くものを持たない僕は、悔しい気持ちを持て余してしまう。
僕は心は男だけど、身体は女なのだ。おちんちんさえあればなあ。
「何してるの、さっさと着替えなさいよ」
パンツを替えて振り向いた七巳が腕を組んで睨んだ。
わかってるよ、と言って僕もブラを替える。
いたずらされないように、七巳から距離を取って、水色のスポーツブラをつけた。
昨夜と違って七巳は僕には構わずに、髪をポニーテールにまとめている。
朝食の席には、昨夜居なかった七巳の曽祖父の神主さんも席に着いていた。
いかにも神主としての威厳があるおじいさんだ。
前髪はほとんどなく、額をすっきりと出してオールバックに流している。生え際が少し後退気味で、広い額が穏やかな表情をより優しく見せていた。
大きな円卓を囲む僕らに、七巳とその母親が食卓にご飯を並べたりしている。
おっと、僕も手伝わないと、と思ったときにはすでに準備が済んでいた。
「七巳のお友達か。わざわざ東京からよくいらしたのう。この月読峠、ゆっくり楽しんで行きなさい」
にこやかな曽祖父さんの言葉で、皆が食事を始めた。
朝食は卵焼きとサバの塩焼き、それと野菜の煮物にご飯と味噌汁の純日本風だった。
「君たちも、古地図で宝探しかな?」
七巳の父親、貴利さんだったかな、が親しげに声をかけてくれた。
「はい。テレビのニュースを見て、僕も興味湧いたんです」
大吾が代わりに答えてくれた。
「そういえば先日、砂原湖の向こう側の斜面に洞窟があって、その中で温泉が湧いてるのが見つかったんだよ。いま役場の方で調査中だよ」
その温泉はきっと、あの大学生が探していたやつに違いない。
二週間前に僕が初めてこの町に来たとき、途中で会って一緒に古書店まで行ったのだった。
たしか村先とか言う名前だったな。あいつも探した甲斐があってよかったじゃないか。
朝食が済んで、八時に神社の門の前に待っていると、ほどなくクリーム色の軽自動車が走ってきた。
池水さんの車だ。
おはようございます、三人で言いながら車に乗り込む。
助手席は大吾で、後ろは僕と七巳だった。
「黒装束、用意してきただろうね」
池水さんがいうから、僕が、もちろんですよと答えてやった。
「忍者みたいにカッコいいやつですよ」
僕が言うと、さすが辻文神社だな、と池水さん。
「烏の夜神楽の衣装、ここの人はみんな知ってるから」
七巳がそう言った。この町ではポピュラーなイベントなのだな。
東京住まいの僕には全く知らない世界だった。
すぐに車は砂原湖の湖畔に着いた。
「大吾くん、これ運んでくれないか」
池水さんが車のバックドアを開いて、少し大きめの旅行バッグみたいなものを指差した。
おお、結構重いっすね、と言いながらも、軽々と大吾が担ぐ。
僕も池水さんに頼まれて、黒いビニール袋を一つ持って船着き場へ歩いた。
七巳は三人分の黒装束を、池水さんはいつもの黒いデイパックを担いでいる。
昨日と同じようにボートの船着き場に着く。池水さんを見ると、今から乗るボートを見て、憂鬱な表情だった。
荷物を全部のせて、また大吾がボート漕ぐかかりだ。
「大丈夫。こんなの平気だから」
大吾は軽くオールを漕ぎ出した。
昨日も思ったが、楽々浦の漕ぐボートよりもずいぶん速い。
時間的には、三分の二くらいの時間で島に着いた。
見上げると、昨日松の木に縛り付けたアルミの梯子も、まだそのままだ。異常なしと。
「まずは着替えようか。私は目出し帽かぶるだけでいいように着てきたから。君ら、向こうで着替えてきなさい」
池水さんは青い顔でそう言った。
ダウンジャケットを脱いで、烏天狗の衣装を着る。天狗の面まであった。
黒いくちばしの面は、頭の後ろまで真っ黒い布が覆うようになっていた。
黒い地下足袋まで履いて、真っ黒クロスケの完成だ。




