6 お泊り
「由紀一人なら問題ないんだけど、大吾くんもだと微妙なんだよね」
七巳の両親と一緒に晩御飯をご馳走になっての、その後のことだ。
七巳のご両親は、ごく普通のサラリーマンの夫婦という感じだった。
神主の曽祖父さんは、今夜は役場で夏のお祭りの打ち合わせということで、それの打ち上げ会みたいなので遅くなるということだった。
今年92歳になるというのに、お元気で何よりだ。
「微妙というと?」
大吾が聞いた。
三人で七巳の部屋の小さな座卓を囲んでいる。
七巳の部屋は畳敷きの和室で8畳間。割と広い。
この座卓以外では、隅に勉強用の文机と本棚が二つある。
「普通に考えると、大吾くんを別室で、私と由紀がこの部屋で寝ることになるんだけど。由紀って心は男なんでしょ。としたら、大吾くんと由紀が一つの部屋にしたほうがいいのか、ということよ」
なるほど。七巳の悩みが見えてきた。
「俺はどっちでもいいよ。中学生の時も二人で同じ部屋に寝たことあるし。こいつのことは同性って認識だから」
大吾は予想通りの返事だ。
「でもねえ。やっぱりそれはどうかと思うんだよね。もしも、ということもあるし、その時は私が由紀のご両親に顔向けできないわけだし」
「じゃあ、由紀は七巳さんの部屋でお泊りすればいいわけだよね。それでもいいよ」
屈託なく大吾が言うけど、まだ七巳は首を傾げている。
「僕もそれでいいよ。大丈夫、七巳のこと好きだけど襲ったりしないから」
僕が言うけど、まだ七巳は難しい顔をしていた。
そんなに信用ないのかな?
「いや、由紀から襲われるなんて思ってないよ。私が由紀のこと襲わないか、ちょっと自信無くてさ」
くすっと笑った。
「でも、そうだね。もしものことを考えたら、やっぱりわたしの部屋に由紀を寝かせるのがいいよね。なにかあっても妊娠しないし」
七巳の言葉に、大吾が、ぶっとコーヒーを吹き出した。
「それと、明日の黒装束、三人分用意したから」
七巳が風呂敷包みを座卓の上に置いた。
包みを解くと、黒い着物が出てきた。
これは? と聞く大吾に、
「年に一度、夏に天狗の夜神楽というお祭りがうちの神社であるのよ。その時に使う黒装束。烏天狗に扮装するの。実は大ジジが役場に打ち合わせに行ってる行事ってこれなんだ」
そう言いながら七巳が黒装束を羽織ってみせた。
まるで忍者みたいだった。
サイズ合わせに僕と大吾も着てみる。
「大吾くんには大きめの物持ってきたんだけど、まだ少しサイズ小さいかな」
「いや、これで大丈夫だよ。だいたい、異界の穴を通るときだけだもんね、必要なの」
二人が話している。
僕の方は少しサイズが大きくてダブついていた。
「由紀、それ可愛い。子供っぽくて」
七巳がまた笑った。
覚えてろ、寝込みを襲ってやるぞ。その想像で僕はほっぺが熱くなったのだった。
午後10時を過ぎて、いよいよ就寝時間になった。
明日のことも気になるけど、今は目先のことが問題だ。
大吾を別室に案内していた七巳が帰ってきた。
「じゃあ、こっちもお布団敷こうか」
押し入れの扉を開き、七巳が敷布団を二枚引っ張り出した。
僕もそれを手伝って部屋に並べる。
枕に、毛布に柔らかい羽布団を二つ、それぞれの場所に敷いた。
「うう、なんか新婚さんみたい」
僕は思わず呟いてしまう。ぴったりくっついた布団の枕を中央に寄せて並べてみた。
「バカね。パジャマに着替えなさい」
言われて、七巳はと見るとすでに着替えている。
「いつの間に?」
「由紀が枕くっつけて遊んでる間に、よ」
そうだったのか。七巳のお着替えシーンを見逃してしまった。
いつも女子更衣室で着替えはしてるから、普通はなんとも思わないんだけど、七巳はやっぱり特別だよな。見逃して損したかな。
「じゃあ、ちょっとあっち向いててよ」
僕は七巳に背を向けてトレーナーを脱ぐとスポーツブラを外した。
途端に後ろからおっぱいをもみくちゃにされる。
「きゃん。駄目だよ、七巳!」
「ほんのりで可愛い」
今度は乳首をくいっとつねられた。うっく。しゃがみ込んでしまう。
「ほら、早く下も着替えなさい」
「何だよ。七巳が邪魔してるんだろ」
「えへへ。ごめんごめん」
そんな事があって手間取ったけど、なんとか無事着替えることができた。まったくなにやってるんだか。
電気を消して布団に入る。
そういえば、この神社の裏山で大蛇の化石が出土したんだったな。
それを示した古地図を、烏天狗が撒いたのだとしたら、烏天狗は何がしたかったのだろう。それを人間が見つけることが、なにか彼らにとっての利益になるのだろうか。
横に寝ている七巳のことを考えないように、そんなことを思っていたけど、じんわり寒くなってきた。
毛布一枚と羽毛布団では今夜の寒さは防ぎきれないのかも。
その時、横で七巳が小さく言った。
「今夜は特別冷えるね。こっちにおいでよ。由紀の毛布一枚こっちに追加して二人で一緒になろう」
七巳と一つのお布団で。頭が、くんと沸騰する。
寒いんだから仕方ないよな。七巳も寒いんだし。
僕は七巳の言うように、自分の毛布を一枚七巳の布団の上に重ねて、彼女の横に入った。
途端に温かい温もりを感じる。
七巳の手が僕の背中に回って、身体を密着させてきた。
その温もりは幸せの形をしている、と思った。




