4 誘拐された?
「それで、試してみたいことってなんですか?」
七巳が僕らを代表して、池水さんに聞いた。
辻文神社に荷物を預け、近くのファミレスでランチを済ませた後だった。
再び池水さんの軽自動車に、皆で乗り込んでいた。
聞きたいことは僕もたくさんあったが、とりあえず食べてからということで、今まで聞くのを我慢していたのだ。
「今度は直接天狗の里を覗いてみようと思ってるんだ」
池水さんの返事で、先程皆で見た新しい天狗の里のビデオ映像を思い出す。
とりあえず見てくれと言われて、ファミレスで観せられたビデオ。
二人掛けの椅子に僕と七巳と大吾が身を寄せ合って、ノートパソコンの画面を見た。
楽々浦くんと池水さんが、独自に調査した映像だった。
以前見たビデオと同じように、雪深い天狗の里の映像だったが、さらに奥の方を探索したそれには、茅葺き屋根の家が集まった村が映っていた。
そして、そこに集う真っ黒い人影も。
ドローンの最後の映像では、一人の人影がこちらのカメラに気づいて矢を射るところが捉えられていた。
その後すぐに映像は乱れて、ドローンが撃墜されたことがわかった。
カメラが回転して落ちていくときに、一瞬空に向いた時、その空には二つの月がかかっているのが見えた。
カメラブレで二重に見えたのかと思ったけど、次にスローモーションで見た時、やはり二つの月が存在すると、はっきりした。
つまり天狗の里は、この地球上ではないという証拠だった。
池水さんは、今度はドローンじゃなくて直接その里を覗いてみようと言っているのだ。
「でも、どうやって?」僕はそう聞くが、すぐに大吾が声を上げた。
「いや、今は楽々浦くんの行方を探すのが先でしょ」大吾の言うのはもっともだった。
「私は、楽々浦くんは天狗の里にいるんじゃないかと思ってるんだ」
顎を引いた池水さんが、ぎょろりと僕らを見上げるように見た。
「私の知り合いの警察関係者が教えてくれたんだ。楽々浦くんの行方を探るうちに、一つの証言があった。彼が湖の畔を黒い人影とともに歩いていた、というものだ」
「じゃあ、楽々浦くんは烏天狗に誘拐されたってこと?」
助手席の七巳が呆気にとられた声を上げた。
たぶん、と呟いた池水さんは車を発進させた。
どこに向かうのかは、予想通りだった。
湖のそばの砂利の広場で、池水さんは車を止めた。
じゃあ降りてというので皆が車を下りた。池水さんの後を三人でついていく。
湖のボートの船着き場に来た。風が舞うせいか、ここには雪は積もっていなかった。折りたたみの脚立を池水さんはボートに乗せた。
「じゃあ、島に渡るぞ」
促されるままに僕らもボートに乗る。
ボートの漕ぎ手は大吾になった。池水さんに頼まれた大吾が、任せてくださいと漕ぎ出す。
ボートには脚立の他には黒いロープなども乗せてあった。
「でも、どうして楽々浦くんが誘拐されるんですか?」
七巳が僕も思っていたことを聞いてくれた。
「多分。天狗の里を見てしまったからだろうな。当然私も、辻文くんも、泉川くんもさらわれる恐れがある。だから先手を打つんだよ」
池水さんは、速くも船酔いなのか、胸に手を当てて苦しげな表情だった。
10メートルで船酔いするって言ってたもんな。吐くなら船の外にしてほしいな。
「じゃあ、楽々浦さんは、向こうの世界で罰されて、責め苦にあってるってこと?」
七巳の言葉で、縛られて吊るされて、鞭打たれている彼の映像が浮かぶ。
「ああ。君たちも私も、そうなる恐れがあるってことだ」
池水さんの言葉で、僕の中で裸に剥かれた七巳が吊るされている光景が浮かんだ。
思わず、でへっとなるイメージだった。
「由紀、今変な妄想したでしょ」
すかさず七巳が僕を睨んだ。
「僕は変な妄想なんてしてないのだ。七巳は僕を変態みたいに思うのはやめてほしいのだ」
僕は七巳の視線をかわすけど、七巳にはお見通しなのはどうしようもないことだった。
「男の性欲はすごいって聞くからね。由紀も心が男ならそうなのかなって思ったの」
ふっと七巳が笑った。
えへん、と一つ咳をして大吾が話を変えた。
「もしかして、この脚立を松の枝先につけるつもりですか?」
池水さんに聞いた。
なるほど、僕は思いもつかなかったけど、そうすれば松の木の上空まで足を運ぶことが出来るというわけだ。
「ああ、そうだよ。よくわかったな。それで向こうの世界を覗いてみるんだよ」
今にもゲロ吐きそうな池水さんが唸るように言った。




