12 これで解決?
楽々浦の差し出したスマートフォンを池水さんが受け取った。
あの中にこの異界の里のデータが入っているのだ。
固唾を飲んで見守る僕らの前で、池水さんがサイドボタンを押した。
しかし、画面は暗いまま。
「なんだ、電池切れてるじゃないか」
池水さんが声を上げる。
「そうなんですよ。本当は二日くらいで済むかと思ったんですが、誤差をプラマイ5日くらいしにたかったから、今日までかかってしまったんです。それで観測を済ませて、いざ計算というところでバッテリー切れでした。充電しに戻らせてくれって頼んだんですが、異界の穴は一度往復したら二度目はないと言われて、だから池水さんたちが来るのを待っていたんです。モバイルバッテリーか、USBコード持ってません?」
楽々浦の言葉に、僕はがっくり来てしまった。
楽々浦が待っていたのは、僕らの助けではなくてバッテリーだったのだから。
それから後は、池水さんのモバイルバッテリーで楽々浦のスマホを充電して、計算が完了した。
「来年の7月の二月重合が超大潮の時期のようですね。7月15日、誤差はプラマイ5日ほど」
楽々浦の言葉に大吾が被せた。
「そんなの、誤差なんか気にせずに7月の二月重合の時って言えばいいんじゃないか?」
「月は、新月もあるし、雲に隠れて見えない夜もあるからだよ」
楽々浦の言葉に大吾もうなずかざるをえない。
やはり頭脳戦では大吾も楽々浦には敵わないみたいだ。
「あとは、警告を出して、それを村人が素直に信じるか、だな」
池水さんがさらに問題提起した。男ってこういうの考えるの好きなんだな。
僕はすっかり解決した気になっていた。
「これまでに、そういう警告を出したことなかったのかな」
大吾が聞いた。
「警告を出せるほど精密にわかることがなかったって言ってたよ。前回の250年前も、僕らの世界の人間に相談したことがあったらしい。ゲンナイという名前の男に。その男を一週間招いて相談したけど、結局駄目だったみたいだ」楽々浦の言葉に、僕はひらめいた。その男って。
「それって、平賀源内? 確かちょうどその時期の人だよね」
僕が言おうとしたのに、七巳に先を越されてしまった。ぐぬぬ、僕もわかったのに。
クイズ番組のボタン押しが遅い回答者みたいな気持ちになった。
「それ、面白いな。平賀源内の生涯の中で一週間、烏天狗に招かれた時期があったっていうの。これ小説のネタになるかな」
池水さんが食いついた。
「それよりも、どうやって村人に避難させるかってことでしょ」
僕がツッコミを入れてやった。
皆がうーんと唸って黙った。
なかなかいいアイデアが出ないようだ。
「いっそのこと、発想を転換させてみたらどうかな」
やっと大吾が言った。
発想の転換って? と僕が聞くと、
「人間って、恐怖でも動くけど、楽しいことではもっと動くかなと思ってさ。避難訓練よりもディズニーランドに行く人のほうが多いだろ」
大吾の言うのは、なるほどだった。
「じゃあ、なにか楽しいイベントを催して、天狗の里に村人を招くとかいいかもね」
七巳が言う。
僕もなにか言いたいが、何も思い浮かばない。
「7月15日を中心にして前後5日の催しねえ」
池水さんが腕を組んだ時、僕はひらめいたのだ。
急いでボタンを押す!
「カラスの夜神楽だよ。そのお祭りをこの里でやるんだよ!」
正解だったかな。皆がおおっと唸った。




