その9
Kに深々と挨拶した男が去った後、Kは何事もなかったように話し始めます。
私達は、私達のバンドのライブを計画していて、その選曲について話をしていたのです。
「やっぱスリーピース・バンドだし、歌えるのがSしかいないからなぁ。曲が限られるよなぁ」
"S"というのは、Kを私に紹介した私の高校時代の友人で、バンドではベースとボーカル担当です。
「Hちゃん、ポリスが演りたいっていってたじゃん。いいと思うよ、スリーピースだし、アイツも好きだし」
もう私はKの言葉に反応できる状態ではありません。
同じ言葉が、頭の中でリピートし出していました。
――副番…ふくばん…フクバン…FUKUBAN…
Kは話し続けています。
私は「うん」とか「ああ」とか言っていましたが、呼吸のように、自律神経によってのみ発せられていたと思います。
そして、Kとの初対面の時に感じたあのイヤ〜な感覚が、体中に広がっていくようでした。
その時です。
別の男が私達のテーブルの前に現れ、
「Kさん、お久しぶりです。また今度ゆっくりお話しさせていただきたいです」
そう言って、深々と頭を下げ、去って行きました。
私の目は、男の革ジャンにリーゼントという後ろ姿を無意識に追っていました。
その後、あっけに取られた私をよそに、知らない男達が次々に現れ、Kに挨拶し、深々と頭を下げて去って行きました。
何人来たのかもう覚えていませんが、まるで”K詣”のようでした。
私は心の中で叫んでいました。
「お前、やっぱ本物の副番じゃねぇかよ。」
「何が、大した話じゃない、だよ!」
「こんなん見たら、ビビるに決まってるだろ!」
「頼む、もう帰らせてくれぇ〜〜!」




