その8
最初の“サシ飲み”以降、私とKはよく二人で飲みに行くようになりました。
私の地元とKの地元(電車で十分ほどの距離です)を、お互い行き来しながら飲んでいたのです。
そのうち、会うたびに梯子酒となり、カラオケにもよく行くようになっていました。
二人ともビートルズの大ファンだったのですが、いつの間にか、カラオケの締めは《アビイ・ロード》B面メドレー、というルーティンまで出来上がっていました。
そんな感じで、当初抱いていたKへの警戒心は、すっかり消えていました。
なので、私の方から飲みに誘うことも多くなっていたのです。
初めてのサシ飲みから数ヶ月後の夜。
私とKは、Kの地元にある、ちょっと変わった店で飲んでいました。
私が初めて入る店です。
店内は迷路のような造りになっていて、個室ではないのですが、袋小路のような場所にテーブルが置かれているため、他の客の姿が見えにくくなっています。
壁には異国情緒のあるオブジェがいくつも掛けられていました。
何でも、Kが昔から通っている店だそうです。
飲み始めて数時間。
私とKは、いつもと変わらない、たわいもない話をしながら飲んでいました。
すると突然、一人の男が私たちのテーブルの前に現れたのです。
リーゼントに黄色い開襟シャツ、ニッカポッカのような黒いパンツ。
男はKに深々と頭を下げて言いました。
「Kさん、XXXです。いつもお世話になってます。今後ともよろしくお願いします」
Kは、そっけなく「おう」と言うだけでした。
男は再び頭を下げ、そのまま去って行きました。
――ン?
私の脳裏に浮かんだ言葉です。
その瞬間、忘れていたある感情が、ゆっくりと湧き上がってくるのを感じていました。




