その5
Kは座ると、私のウーロンハイを見るなり、
「お、Hちゃん、もう呑んでたんだ」
(Hとは、私のことです)
そう言うと、テーブルのベルを押し、メニューを開きました。
――いきなり“ちゃん”付けかよ。まだ会ったのは二回目だぜ。
この時の私は、メニューに目をやるKを睨みつけていたと思います。
店のスタッフがテーブルに来ると、
「ナマね、ツマミは今決めてる」
そう言って、再びメニューをじっくりと見始めました。
スタッフは「はい」と言ってテーブルを離れます。
私の場合、居酒屋で最初に頼むツマミは決まっているので、メニューを見ることはありません。
いつも、枝豆、冷奴、焼き鳥(だいたい、皮とネギ間)です。
どの居酒屋にも、たいていあるツマミです。
やがて、店のスタッフがジョッキの生ビールを持って来ました。
「ご注文、お決まりでしょうか?」
Kはメニューに目をやったままなので、私が注文します。
「枝豆と冷奴、焼き鳥の皮とネギ間一本ずつ、お願いします」
Kはメニューに目をやったまま、
「ん〜、チャーハン、トンカツ……以上」
そう言って、メニューをパタンと閉じました。
そして、ジョッキを持ち上げ、
「とりあえず、お疲れ様っつーことで」
そう言ってジョッキを私の顔の前に突き出します。
私はウーロンハイのグラスをジョッキに重ね、
「お疲れ様」
と言いました。
Kはグビグビと生ビールを飲み始めました。
――チャーハンにトンカツって、何でいきなり、すぐに来そうもないモン頼むんだ、コイツは?
やっぱ違う。コイツは違う……。
胸の奥に燻っているあの感覚が、一気に喉元まで込み上げて来るようでした。




