その33
「ちょっくら失礼!」
Kはそう言うと、手刀を切ってトイレに行きました。
変わってないな……
私は口元からフッと息を漏らして奥さんの方を見ます。
奥さんは無言で私を見ていました。
お互いに言葉を発しません。
コレ、聞き続けてもいいの……?
奥さんの表情はそう言っているように見えます。
私は、軽く首を傾げました。
トイレから戻ったKは「っしょ!」と言って椅子に座ります。
Kは唐揚げを一口つまみ、ウーロンハイでそれを喉に流し込みます。
私は缶ビール、奥さんは缶のレモンサワーを口にします。
Kは、ふぅ~、大きく息を吐き、腕組みをして天井を仰いでいます。
そして、咳払いをして私の顔を見ると話を続けました。
「叔母さんの家を出てから、死に場所を探したんだ」
「高層マンションの非常階段で最上階まで登ってさ、そこから飛び降りようかと思ったけど……」
「下を見たら足がすくんじまってダメだった」
っ!マジで死ぬつもりだったのか?!
「あと、橋の上から飛び降りようとしたけど、高さが十分じゃないから、これじゃぁ死ねないと思ってやめたな」
Kは、ヒャヒャヒャと笑います。
おいっ!
笑いごとじゃないだろ、コレ!
「で、思ったよ。いざとなったらできないもんだな、ってな」
・・・・・・・・・
「しばらくあちこち歩きまわって、夜はマンガ喫茶とかで過ごしたな」
「いくらか金があったから、金が尽きたら本気で死ぬ気になるだろう、そう思った」
「アタシもトイレ!」
奥さんはそう言ってダイニングルームから出ていきました。
私は、冷蔵庫から缶ビールと缶ウーロンハイを取り出し、テーブルの上に置きます。
「フライドポテト食うか?冷凍だけど」
「お、いいね」
私は冷凍庫からフライドポテトの袋を取り出し、皿に盛って電子レンジに入れます。
私は、Kに背を向けて電子レンジの前に立ち、カウントダウンしていくタイマー表示を見つめていました。
Kは黙っています。
「う~寒い……」
奥さんはそう言いながら戻ってきました。
電子レンジがピーピーピーと鳴ります
私はフライドポテトの皿を電子レンジから取り出し、テーブルに置きます。
Kは軽く咳払いをして、話を続けます。
「何日経ったか覚えてないけど、ついに金が尽きてさ、電車に乗ったんだよ」
「Sの葬儀の斎場に行った時に降りた駅、覚えてるだろ?あそこで降りてさ」
「で、ホームの反対側に行ってさ……」
私の体は微電流に刺激されたように、ピクっと少しだけ痙攣しました。
「そんでさ……電車がホームに入って来てさ……」
・・・・・・・・・
「飛び降りたんだよ」




