その26
土曜の夜七時。
私とKは、私の部屋でウーロンハイを飲んでいます。
四畳半の私の部屋で、床に新聞紙を敷き、その上にはスーパーで買った惣菜、焼酎の紙パック、ウーロン茶のペットボトル、アイスバッグ、グラス、そしてKの前に灰皿が無造作に置かれています。
私の部屋には、ソファはもちろん、来客用のテーブルや椅子などないので、床に直座りなのです。
Kの買ってきた惣菜は、焼きそば、唐揚げ、たこ焼き、お好み焼き...という、まるで祭りの屋台で買ってきたようなラインナップです。
Kは魚と野菜を食べないようです。
少なくとも、私はKが魚や野菜を食べる様を見たことがありません。
私のツマミは、寿司のパック詰め、枝豆、ゴマ豆腐です。
何故、私の部屋で飲んでいるかと言いますとーー
会社を辞めたKは、まだ仕事をしておらず、金銭的に余裕がなくなってきたので、住んでいたアパートを引き払って、Kの知り合いの家に居候しているらしいのです。
同居していたKの母親は、次男坊に預けたそうです。
そして、居酒屋で飲む金銭的な余裕もないようです。
「それでオレさ、2号って呼ばれてたんだよ、二週間」
「……なにそれ?」
「留置所の看守にそう呼ばれてた」
「……」
「タバコ、吸っていい?」
「ああ…いいよ」
Kは、いつものショートピースに火をつけ、深く吸い込んだ煙を天井に吐き出します。
「ケンカ、やっちまってな」
「それで捕まって、留置所に、ってこと?」
「ああ」
「何でケンカになったの?」
「うん……」
Kは指に挟んだショートピースの先を灰皿で軽く叩くと、再び深く吸い込みます。
私は立ち上がり、窓を少し開けました。
「外で飲んだ帰りにさ、前からツッパッたガキが二人歩いてきたんだよ。デケェ声出して、エラそうな態度でよ」
「そいつら見てたら、無性にムカムカしてきてさ、オレ、わざとそいつらとぶつかるように近づいて行ったんだよ」
「そいつらがオレを避けたら見逃してやろうと思ってたんだけどな」
Kはたこ焼きを一つ摘み口に放り込むと、数回咀嚼してウーロンハイで流し込みました。
「でまぁ、結局オレは留置所で、アイツらは病院。近所の誰かが警察に通報したんだろうよ」
Kは天井を仰ぎ、ショートピースの煙を吐き出します。
心なしか、疲れているように見えました。
留置所でのこと、居候生活のこと、職探しのこと……
私は何も聞きませんでした。
しばらく、たわいのない話をした後で、Kは帰っていきました。
Sの死、カナさんとの別れ、退職、アパートを出て居候生活……
私は思います。
さすがのKもストレスが溜まっていたに違いない、と。
Kの今後が心配になりますが、私に出来ることは思い付きません。
Kも私には何も期待していないでしょう。
私は開いた窓に手をかけて、暗い夜空を見上げました。
何故かため息が漏れます。
そして、窓をゆっくりと締めました。




