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某年1月2日。晴。  作者: あみれん


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25/34

その25

「献杯」


Kは静かにそう言うと、眼を閉じて頭を垂れ、日本酒の入ったお猪口を静かに持ち上げます。

私達も、静かに「献杯」と言い、お猪口を持ち上げます。

残る二人はSとKの中学時代の同級生で、私とは初対面です。

この二人とは斎場で挨拶を済ませていました。


私達四人はSの葬儀に出席した後で、駅近の蕎麦屋にいました。

客は、テーブル席の私達四人と、カウンターでビールを飲んでいる年配の男性だけです。

時間は午後四時でした。


Kは黒のタイを外し、黒の上着を脱いで座席の背もたれに掛けると、天井を仰いで、はぁ〜、と息を吐きます。


「やっぱオレはダメだな、こういう格好は」


私達も上着を脱ぎます。

すると、場の景色が少し軽くなりました。


一人が言いました。


「でもよ、K、お前の喪服姿、結構見られるぜ」


「へっ、あったりめぇだろぅ?オレだぜ」


小さな笑いが起きました。

私は思っていました。


ひょっとしてこの二人も”副番”絡みの関係……?


「Hさん、どうですか?」


一人が私に日本酒の徳利を差し出してくれました。


「あ、どうも…」


彼は私のお猪口に日本酒を注いでくれます。


「お、蕎麦がき、あんじゃん!」


Kがテーブルに置かれたメニューを見ながら言います。


「すみませ〜ん、蕎麦がき二つ、お願いします!」


すかさず、一人が注文の声を張り上げました。


やっぱり……”アッチ系”なんだな、この二人も……


Kと二人は中学時代の思い出話を語り始めます。

私は黙って、それを聞いていました。


三十分ほど経つと酔いも回ってきて、笑い声が増え、声も大きくなっていました。

飲む酒もウーロンハイに変わっています。


「Hさん、知ってましたか? コイツね、中学の時に副番ハッテたんすよ」


私の正面の彼が、親指をKに向けながら言います。

Kは、わざとらしく咳払いをします。

正面の彼は、Kの武勇伝を語り出しました。


「ったく、余計なこと言うんじゃねぇよ」


Kが言います。

でも、不愉快そうには見えませんでした。

いや、むしろ楽しそうに見えました。


彼はKの武勇伝を語り続けていました。

私は黙って聞いていました。

適当に驚くような相槌を打ちながら聞いていましたが、正直、もうあまり驚きませんでした。

聞きながら、私は斎場でのKの姿を思い浮かべていました。


棺に横たわるSの顔を見たKは、膝を曲げて腰を折り、静かに泣いていました。

Kの静かな嗚咽が……聴こえていました。


店内が混雑し始めた頃、私達は店を出ました。

私と二人は「お疲れ様でした」と互いに軽く挨拶を交わします。


Kは私を見ると、「んじゃ、また」と片手を上げて、二人と共に駅とは逆方向に歩いて行きました。

久しぶりの再会だったのでしょう。


もう一件行くんだろうなーー


その後暫く、Kから連絡がありませんでした。

気にはなりましたが、私から連絡はしませんでした。


そして二週間後ーー


Kから電話があります。

K劇場の開幕を告げるーー電話でした。

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