その24
デスクの上で携帯の着信バイブが響きました。
ディスプレイにはKの名前です。
私は携帯を手にすると、急ぎ足でオフィス・ルームを出ます。
これまで、平日の仕事中の時間帯にKから着信があったことはなかったのです。
胸の辺りにイヤな騒めきが走ります。
給湯室には誰もいません。
私は給湯室に入ると、受信ボタンを押します。
「オレ」
Kの声です。
「こんな時間にどう…」
「Sが死んだ」
「……」
「意味……分かるよな」
「……」
「通夜は明日で、葬儀は明後日だ。Hちゃん、来れるか?」
「......明日は行けない、ゴメン、でも、明後日は大丈夫だ……」
Kと私は、明後日の葬儀に一緒に出席するために、待ち合わせ場所と時間を決めて電話を切りました。
私は、給湯室の中で動くことができませんでした。
手が震えていました。
押し殺すように、ずっと考えないようにしていたこと——
起こりそうで、でも絶対に起こって欲しくないこと——
でも、心のどこかでほんの少しだけ覚悟していたこと——
とうとう、起きてしまったのでした。
ある土曜日の午後、突然私を訪ねてきたSはパジェロの運転席でサングラスを掛けて、ハンバーガーを食べていました。
それが、私が最後に見たSでした。
そして、その後、KからSの状態を聞いた時から、私はSを意識的に避けていました。
もし――
いや、考えても仕方ない。
私はゆっくりと、オフィス・ルームに戻っていきます。
今、自分がどんな表情をしているのか、分かりません。
「明日は行けない」と言ったことを後悔し始めていました。
オフィス・ルームのドアを開け、室内に入ります。
いつもの景色、いつもの音。
私のいない私の席を……見つめます。
明日……休もうか……




