その22
現在。
某年1月2日。晴。
私の部屋。
陽はすっかり暮れていました。
部屋の南側の大きな窓ガラスに、テーブルを挟んで座る、私とKの姿が映っています。
私は、窓ガラスのカーテンを引こうと立ち上がります。
「オレさ、生活保護手当もらっているから、働いてないじゃん」
私はカーテンを引き終え、椅子に座ります。
「うん」
「時間が沢山あるからさ、よく出歩くんだよ」
「出歩くって、どこを?」
「あちこちだよ。施設の近くの商店街とか公園とか、いろいろ」
「うん」
「でさ、たまにさ、"昔の場所"に行きたくなってさ、電車に乗って行くんだよ」
「うん」
「お前、覚えてる?"カナちゃん"って」
「ああ...まぁ」
私は少し、ドキンとします。
「たまにあの娘を思い出すんだよ。それでさ、一度、昔務めていた会社に行ってみたんだよ」
「そしたら、もうその会社なくてさ。駐車場になってた」
「ちょっとだけ、期待したんだよね。会えるかな、って。いや、見れるかな、だな」
「カナ"さん"って、その同じ会社の人だったんだよな」
Kが私の顔を見て、ニヤァ~っと笑います。
「お前、覚えてんだ。俺が怒ったこと」
「忘れるわけないじゃん、当時さ、俺が彼女のこと"カナちゃん"って呼んだら、お前突然怒り出してさ」
Kは、ヒャヒャヒャっと笑います。
「『オレは彼女から"カナちゃん"って呼んでって言われてんだ。お前は言われてないだろ!会ったこともねぇんだから。気安く"カナちゃん"って呼ぶな!』ってな」
Kは、ヒャヒャヒャっと笑い続けています。
コイツ——
私は一緒には笑えませんでした。
Kは冷めたお茶を一口飲むと、大きくため息を吐きました。
「オレさ……やっぱ好きだったんだよ、あの娘のこと。あの笑顔、可愛くてさぁ、今でもはっきり覚えている。いい娘だったんだよなぁ」
私は黙っています。
「でも結局さ、オレがあの娘を苦しめちゃったんだよな」
私は、Kから突然「会社を辞めた」と聞かされた日の事を思い出していました。
いつもの週末でした。
いつもの店で、いつもの生ビールとポッピー。
そしていつものチャーハンとスパゲッティ・カルボナーラ。
でも、Kはいつもと違う空気を、少しだけ纏っていたのです――




