その20
私の目の前に揚げ出し豆腐を置いた店の奥さんは、小さな声で「お待ちどうさま」と言います。
私は、氷で薄くなってジョッキの底に溜まったホッピーを急いで飲み干して言います。
「すみません、ホッピーのナカ、それと、焼き鳥のカワ、ネギマ、塩でお願いします」
奥さんは小さな声で「はいよ」と言って、伝票に書き込み、私のジョッキを持って厨房に戻って行きます。
私は、目の前に置かれた揚げ出し豆腐に箸を付けます。
うん、美味い――
Kは黙ってショートピースをふかしています。
沈黙が続きます。
「焼き鳥、取りにきましたー」
中年の女性が店に入ってきました。
店の奥さんが、厨房から包みを持って出てきます。
二人はしばらく談笑していました。
私は何も言わず、Kの言葉を待っていました。
「とにかく、アイツは病気になった。オレらに出来ることは......アイツが回復することを待つことだけだ」
私は、揚げ出し豆腐を食べながら頷きます。
「せっかく、ストラト買ったのにな」
私は、揚げ出し豆腐を食べながらまた頷きます。
Kは私の方をチラ見して、ジョッキのホッピーを飲み干します。
「マスター、ウーロンハイ」
Kはそう言って、ショートピースに火を付けました。
私は思います。
今日はタバコのペースがやけに早いぞ......
奥さんが、ホッピーのジョッキ、ウーロンハイと焼き鳥の皿を持ってきました。
私がジョッキにホッピーを注いでいると、Kが言います。
「あのさ…好きな子がいるんだよ」
私はマドラーを持つ手を止めてKを見ました。
普通だったら、自然に、かつ好意的にこんな風に言っていたことでしょう。
「へぇー、そうなんだ、よかったじゃん、どんな子?」
しかし、私が思ったのは
「それ、今言う?」
でもって
「え?また?」でした。
まあ、Kの中ではSの話は今日のところは終了していたのでしょう。
そして、Kからそんな告白を聞いたのは初めてだったので、この"また?"は意味を成していないのですが、
恐らく先日の美人局の一件が私にそう思わせたのだと思います。
私はとりあえず言葉を返します。
「へぇー、そうなんだ、よかったじゃん、どんな人?」
「ああ……でもなぁ、人妻なんだよな」
「え?…」
やっぱ、"また?"でいいんじゃん!!




