その19
東西に走る路線の改札を出ると、すぐに南北へ真っ直ぐ続く商店街の通りに出ます。
陽はすっかり暮れています。
近年、この沿線の駅前は再開発ラッシュで、私の最寄り駅の駅前も様変わりしてしまいました。
ですが、この駅の駅前商店街は昔のままです。
土曜の夕暮れ時のせいか、多くの人が通りを歩いていました。
通りに沿ってひしめき合うように並ぶ個人商店や、赤提灯の灯り、ネオンが活気を演出しています。
私は人波を縫って、早歩きでいつもの焼き鳥屋に向かいます。
焼き鳥屋の引き戸を開けます。 ほとんど満席でした。
Kはカウンター席に座っていました。
この店では、Kはいつもカウンター席に座ります。
目の前が厨房なので、注文しやすい、というのが理由です。
Kは焼き鳥とホッピーです。
この店にはチャーハンもスパゲッティ・カルボナーラもありません。
私はKの隣に座るとすぐに、厨房にいるマスターに、ホッピー白セットと揚げ出し豆腐を注文します。
「大分慣れたんじゃないのぉ? Hちゃん」
この店は人気店ですが、マスターと奥さん、たまに娘さんだけで切り盛りしていて、皆いつも忙しそうにしています。
なので、待ちの姿勢でいると、いつまで経っても注文できないのです。
Kはショートピースに火を付けます。
私は壁に貼られた"お品書き"を見ています。
沈黙が続きます。
奥さんが、ホッピー白セットを持ってきました。
私は焼酎の入ったジョッキにホッピーを注ぎます。
Kはジョッキを少し持ち上げ「ういっす」と言います。
K式の乾杯です。
私はホッピーを、グビッと飲みます。
何とも形容し難い、でも病みつきになる味です。
Kは吸っていたショートピースを灰皿で揉み消すと、大きく溜息をつきました。
「アイツさ、どうもメンタルらしい」
私は思いました。
やっぱり――
「『お前のとこにも行ったのか』って言ってたよね。アレは…」
「中高時代の同級生とか、あちこち訪ねているらしい。オレのとこにも何度か来たんだ。突然に」
「でも何でメンタルだと?」
「オレさ、アイツの家に行ったんだよ。そしたらアイツいなくてさ。奥さんが出てきて、話してくれたんだよ。通院もして、仕事も休んでいるってな」
やっぱり、とは思いましたが、実は実感が湧いていませんでした。
あの陽気なSがメンタルって....
「奥さんが言っていたんだけど、アイツ、たまに変なこと言い出すらしい」
「変なこと....?」
「なんか…新しいビジネス始めるから、いっしょにやろう、とか。だから絶対に真に受けるな、って、奥さんが言ってたよ」
…そんなに…深刻なのか…
カタンッ、と、揚げ出し豆腐が私の前に置かれました。




