その18
バンド活動を再開して一年。
その間にSは結婚し、私は回数こそ減ったものの、相変わらずKとよく飲んでいました。
流石に美人局の一件で懲りたのか、Kは大人しくしているようでしたが、Sの様子に少し変化がありました。
よくバンドの練習に遅れて来るようになったのです。
遅れて来て、悪びれる様子もなく、謝りもせず、何も無かったように練習に加わり、いつものように笑顔で会話をします。
私はそれに少し違和感を感じていましたが、結婚もしたことだし、忙しくなったのだろう、とさほど気にしていませんでした。
ところが、十五分の遅刻が三十分になり、一時間。
一時間半。
そしてついに、全く姿を見せなくなったのです。
Kも私も、流石にこれはオカシイということになり、バンド活動を休止します。
ですが、私はSの様子を探るようなことはしませんでした。
Sから連絡があるまで放っておくことにしたのです。
それから数ヶ月が経ったある土曜日の午後。
Sから電話がありました。
電話に出ると「近くにいる」と言います。
当時、私は四階建ての賃貸住宅の四階に住んでいました。
ドアを開け外廊下に出ると、階下のこの集合住宅の駐車場に、エンジンをかけたままのパジェロが止まっているのが見えました。
Sの車です。
Sの車まで外階段で降りて行きます。
駐車場まで降りると、車の窓から腕が伸びて、私に向かって手を振り始めました。
私はパジェロに近寄り、運転席を覗きます。
Sはサングラスを掛けて、ハンバーガーを食べていました。
「よう!」
いつもの陽気なSの声です。
「おう」
「突然悪いね」
「ん?なんかあった?」
「いや…」
それからSは無言でハンバーガーを食べ続け、時折シェイクのストローを啜ります。
Sは私を見ていません。
私はSを見ていました。
Sはハンバーガーを食べ終えると「また来るよ」とだけ言って、車を動かして駐車場から出て行きました。
私はその場でKに電話をし、Sの様子を伝えました。
「お前んとこにも行ったか…」
「…どういうこと?」
「今日、会えねぇか?」
その日の夕暮れ時、私はKの地元にある居酒屋に向かいます。




