その15
“やばい事務所に軟禁されてた”………なんじゃそりゃ!
私はSの言葉を全く飲み込めませんでした。
口は半開きで、目は宙を泳ぎ、呼吸は浅く……。
恐らく私は、絵に描いたような呆けた表情をしていたに違いありません。
Sのニヤけた顔が視界に戻りました。
温くなった生ビールのジョッキを握り、一口飲みます。
「どういうこと?」
Sは乗り出していた半身をゆっくりと後ろに戻して言います。
「美人局」
「ツツモタセ……」
「うん。アイツさ………」
Sの話を要約すると、こういう事のようです。
某有名繁華街で知り合いと飲んだKは、その知り合いと別れた後、駅に向かって繁華街をフラフラと歩いていた。
すると、見知らぬ女性に「よかったら飲みに行かないか」と声をかけられた。
酔ってすっかり気持ちよくなっていたKは、女性と飲み屋に行き、しばらく飲んでいると、そこへ男が登場。
「オレの女に何してやがる」
とイチャモンをつけられ、そのスジの事務所に連行され、所持品を全て没収されて軟禁状態になる。
二週間後、解放条件として高額な金銭を要求される。
Kは同居している母親に電話を入れて事情を説明し、お金を事務所まで持って来るように依頼。
後日、母親と次男坊がお金を持って事務所を訪れ、お金を差し出し、Kは無事に解放。
家に帰ったKは、母親から外出禁止令を言い渡され、再び自宅で二ヶ月の軟禁状態となる。
数日前にその軟禁が解けて、今に至る。
私とKは、これまで女性の話をしたことがありませんでした。
考えてみれば、Kは独身なので、浮いた話の一つや二つはあって当たり前だと思いますが、今まで何故か、“オス”としてのKを意識したことはなかったのです。
Sと私の間に、しばし沈黙の時間が流れます。
そして、トイレから出てくるKの姿が見えました。




