その14
Sと私は、バンド活動再開に向けて、演奏する曲選びの話をしていました。
Sはベースとボーカル、私はギターです。
私は、"ビートルズの Drive My Car が演りたい" と言います。
Sは、"アレのリフ、ベースとギターのユニゾンだよね、弾きながら歌うのは難しいんじゃないの?" と言います。
Kは、レンゲにチャーハンの最後の一盛を乗せています。
私は、"完コピじゃなくて、適当に演りやすいようにアレンジしたら?" と言います。
Sは、"うーん、そうねぇ…" と考えています。
Kはチャーハンを平らげ、生ビールで喉を潤しています。
Sが言います。
"とりあえず演りながら考えよっか。カッコいいもんね、あの曲、バリバリR&Bっぽくて"
私が言います。
"ポールのボーカルがハードロックしていて、カッコいんだよなぁ、歌える?"
Kはチャーハンの器をわきに寄せ、スパゲッティ・カルボナーラの皿を目の前に引き寄せます。
"ギリギリ歌えると思う。Hこそ歌えんの? ジョンのパート"
"…ギリギリ歌えると思う。あの Beep-beep,Beep-beep, yeah のところはKも入れて三声でハモリたいね"
私がKをチラ見すると、Kは勝利した力士のように手刀を切って「ちょい、失礼!」と言って席を立ちました。
Sと私は、Kの後ろ姿を目で追います。
Kは、「TOILET」と書かれたドアを開けて、中に入って行きます。
Sは、Kの姿が見えなくなったのを確認すると、グイっと半身を乗り出し私に顔を近づけます。
「あのさ、アイツしばらく連絡取れなかったでしょ?」
Sは少し声を潜めました。
「...あぁ、うん……」
「アイツ、ヤバい事務所に軟禁されてたんだよ」
「…………はぁぁいっ!?」
この予想外の展開の上の更なる急展開に、私は表情を制御する余裕を失っていました。
Sは私のその表情の変化を見て、ニヤッと笑っているようでした。




