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輝鑑 後世編纂版  作者: えねこ
第二部第三話:垣屋続成、但馬へ帰還し初めての論功行賞を行うのこと

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第肆菊(78)章:はじめてのろんこーこーしょー 03

「おぬし、これが何に見える」

 政豊が取り出したものは、彼が戦場にまで持ち出して愛用していた、ある茶器であった。案の定、家臣団は息を呑み、また溜息を漏らして、その茶器を凝視していた。だが。

「……小物入れでしょうか」

 ……続成は、莫迦であった。繰り返す、とんでもない大莫迦であった。あるいは、世間知らずと言い換えた方がいいかもしれない。案の定、家臣団は耳目を疑い、政忠は色を失い、宗続は人前にも関わらず続成を殴りつけようとしたが、政豊はそれを聞いて、逆に呵々大笑し、続成に対して笑いかけた。

「ふはははははは!!! ……おぬし、常豊の病を治すほどの知謀を誇る割に、そういうことについては疎いのう。これはな、茶器じゃ。確かに、小物入れに見えるのだろうが、つまりはこれは茶の湯を行うために作った抹茶を入れて、しばらくの間保管しておく道具じゃ。……まさかとは思うが、本当に知らんかったのか?」

「ははあ。これが茶器なのですね」

 ……続成は、正確にはその中にいて現在続成の操縦桿を握っている逆浦さんは現代人である。故に、茶の湯など上流階級がおハイソ決め込むための戯れに過ぎない、と割り切っていた節もあり、本気でこの手の知識には疎かった。

 とはいえ、彼は後に、というかこの後すぐに、茶器の銘を聞いて、驚愕することになる。……周囲の反応については、読者の想像に任せたいと思う。だいたい、合っているだろうから。

「……本当に知らんかったようじゃの。とはいえ、おぬしといえどもこの茶器の銘を聞けば驚くかもしれんな。おぬし、茶入れというものの中でも極めて高級なものは何か、知って居るか」

「……一応、存じております。名前だけですが」

「ほほう、そうかそうか。なれば、当ててみるか?」

「……自信はありませぬが、いくらでも言ってよいのなら」

「ははは、おぬしの脳裏に、この茶器の銘があるかのう?」

 政豊は、普段から続成を幼名の「孫四郎」を更に略して「孫め」乃至は「孫」と呼んでいたが、その実彼自身も気づかぬうちに、あるいは気づいては居たかもしれないが、続成を孫の如く可愛がっていた。

 とはいえそれもある意味当たり前で、山名政豊の生誕は嘉吉元年、後ノ暦になおして2101年である。対して垣屋続成の誕生年は文明14年、つまりは同じく後ノ暦になおして2142年。40歳以上の開きがあるわけで、後代のように晩婚化が進んだ時代なら扨措き、この当時であれば祖父と孫程度には、離れている年齢差であった。

 政豊は祖父の宗全には可愛がられた記憶はあまりない。あったのかもしれないが、彼の脳裏には、祖父はいつも戦のことばかり考え、顔を怒らせた表情の方が遙かに記憶としては多かった。勿論それは、応仁の乱があったから仕方ないことではあったのだが、あるいは、政豊が続成を可愛がっているのは、代償行為だったのかもしれない。

「……まず、楢柴、初花、新田。違いますか」

 そして、続成がそうとも知らずに、そして茶入れについては全く無知だという証拠のためか、まず当て推量で言ってみたのは肩衝の中でも三本の指に入ると言われている楢柴肩衝、初花肩衝、そして新田肩衝である。当然ながら、彼が知っている茶器はあまり多くは無いし、それにそもそも……。

「うむ、違うのう。ふふふ、別に無制限に言っても良いとはいえ、下手な鉄砲じゃのう。これは肩衝ではないぞ」

 ……眼前の茶器は、茄子形の茶入れである。肩衝とは形状からして異なるのだが、ある意味続成が茶器に全然詳しくないことを証明するような回答に、却って政豊はその性根に満足したのか、答えを誘導し始めた。そして、続成、の、中の人の逆浦さんがかろうじて知っている茶器の中に、それは一応存在した。

「……と、なると、九十九茄子でございますか」

「正解じゃ! ……まあ、正確には九十九髪茄子というのじゃが、まあよかろう。若干傷物であるが、持って行け」

「はあ、これがあの」

 実感が湧かないのか、あまり驚いている風ではなかったものの、後に「驚天動地の報奨」と書き記していることから考えて、続成自身、政豊が自分を可愛がっていることにようやく気づいたという。まあ尤も、なぜ政豊が続成を可愛がっているのかは、彼が挙げた勲功が非常に高い上に、続成がそれに驕ることがなかったので、ということも大きいだろう。

「おう、さすがに知っておるようじゃの。何せ茄子茶入の中では我朝無双とされる一品よ、大御所様から賜った品としては、最高級品といえるものよ。おぬしですら知っているほどの茶器じゃ、大切に、しかしきちんと茶の湯の機会があれば使うようにの」

「は、ははっ」

 さすがに、九十九髪茄子の価値は知っていたのか、畏まる続成。それを満足そうに眺めた政豊は、続成に九十九髪茄子を与えることにした。では、何故それほど大切にしていた九十九髪茄子を政豊は続成に与えたのか。それを、続成が知るのは、もう少し後になる……。

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