第肆水(79)章:はじめてのろんこーこーしょー 04
そして、政豊主催の論功行賞が一通り終わって続成が解放されたのは既に日どころか月も変わって文明十七年六月のことであった。だが、続成には次なる苦難が待ち受けていた。と、いうのも……。
「殿、そろそろ論功行賞を行って下さいませぬか」
「えっ」
……垣屋続成は、山名政豊からすれば家臣であるが、眼前の北山や斉藤、大塚からすれば主君である。当然ながら、垣屋続成は彼等家臣団に、論功行賞で得たものを配る必要性が存在していた。
当たり前だが、赤松政則を討ち取ったのは彼の部下の鉄砲を撃った人間だし、彼自身が指揮を執ったとは言え、多くの武器を運んだり手配をしたり、そして兵糧を計算したりしたのは、部下である。その部下に、行った勲功の対価を与えるのは、源平合戦の頃からの当然の責務であった。ただ、問題があるとすれば……。
「……えーと、論功行賞って終わってなかった?」
垣屋続成は、論功行賞が終わったと思っていた。勿論、彼が「受け取る」論功行賞は終わっていたのだが、今度は彼が配下に「配る」ための論功行賞であった。当然ながら、鎌倉時代の昔より、御恩と奉公というものは武家の鉄則である。
この論功行賞が失敗した結果、戦で負けていないのにもかかわらず滅亡する武家は、非常に多かった。何せ、鎌倉幕府からして、そうだったのだから。
「まだでございますぞ。……まさか、殿……」
そして、若干怖い顔をし始める家臣団。それに対して、続成は速やかに詫びた後に、北山・斉藤・大塚に助言を求めることを告げた。それはすなわち、眼前の三老に対してある種の讒言権を渡したようなものであったが、とはいえ眼前の三老は続成とは一蓮托生の仲である、それは《《ふり》》に過ぎないものであった。
「……ああ、ごめん。てっきり右衛門督様から受けたので、終わりかと思ってた」
「……殿」
案の定、今度は呆れかえる家臣団三老。とはいえ、基本的に続成は闇の覗かぬ間は善性の人間であった。人の善意を引き出す人物と言っても良かった。
「……とはいえ、初めてだからなあ……、こういうの。助言してくれよ?」
「ははっ」
……垣屋続成の中の人である逆浦さんは、基本的に人の上に立った経験もなければ、物事を公正に配る立場に立ったこともない。何せ、彼の前世は書生であり、若くして死していた。当然ながら、そのようなことは、考えたこともなかったのである。
そして、垣屋続成主催の論功行賞が始まった……。
「こ、これで、全員か?」
「ははっ、殿に対して御目見得の適う家臣は、総て揃っておりますが」
「えっ、えー……」
……百人じゃ利かんぞ、この数は。
垣屋続成は、案の定ソデで怯えていた……。
「…………」
一挙一動を数百人に見張られるとか何のバツゲームですか(涙
いや、ゲームじゃないな。ゲームなら数値出てくるもんな。……どうしよう……。
「あー、その」
『はっ、なんでございましょう!』
……怖い(涙
一斉にしゃべんないで、頼むから。俺聖徳太子じゃないの。
「……具体的に、何をすればいいか教えてくれるかな」
「と、殿っ!!」
たまらず、続成を叱りつける三老の一人、大塚。北山や斉藤は黙ってはいたものの、大塚に叱咤を任せるためであり、腹の中では同意していた。
「あー、その、論功行賞を開く側になんの、初めてだから要領が判らん。惣領閣下と同じことをしたら、格式の面でまたやっかみ買うだろうし……」
「……ああ、そういうことで御座いますれば、某から説明致しまする」
「頼んだぞ」
そして、大塚が耳打ちで続成に話した内容とは、だいたい以下の通りである。
・続成自身がどうにかできる裁量の土地は今のところない(当たり前だ)
・かといって続成の直臣が建てた功績なので続成自身が決めなければならない
・よって、とりあえずは「殿の推認」という形での加増の保証が欲しい、ということ
「……ああ、そういうことね。……戦場でドンパチやるよりはマシか」
とはいえ、うーむ。前例的な指標が欲しいんだけど。
「殿、そろそろ再開して宜しゅうございますか」
あ、斉藤、若干苛立ってるな。……とはいえ、ここは曲げられん。
「……斉藤、そう思うなら一つ、助言してくれんか」
「構いませぬが、何をでございましょうや」
「……だいたいどれくらいの勲功に対して、どれくらいの恩賞を与えたら良いのか、指標が欲しい」
「……殿、畏れながら」
……わかってる、それはわかってるよ斉藤。でも、ゲームと違って、どれくらいの勲功を立てたら勲功100になる、とか、あるいはどれくらいの恩賞であれば恩賞10になる、とか、そんなんわからんやん。だったら、まあ、一応過去に戦国系仮想戦記も読んだことはあるけども、筋ならともかく詳しい数字なんて忘れてるに決まってるでしょ。
「いやまー、それを決めるのが俺なんだろうけど、あまりに少ない恩賞だと不満が溜まるだろうし、かといって奮発したら今度は増長しかねない。とはいえ、俺の論功行賞だから任せっきりも拙い。ここは一つ、俺の顔を立てると思って」
「……仕方ありませぬなあ……。……然らば、あまりに落差が激しいときだけは諫言致します。それで勘弁してくださいませ」
「あ、ああ。わかった」
そして続成はソデから評定の最上座へ躍り出た。




