第肆華(77)章:はじめてのろんこーこーしょー 02
そして、初めて所領を持ったにしては、非常に落ち着いた態度で受け答えを行った続成に対して、政豊は政豊自身にしか判らない何かしらの感慨を抱いた後、どこまで眼前の孺子に知恵が存在するのか、試してみたくなったようだ。
「……そうか。……して、その様子では、父や兄の着任地も案があるのであろう、申せ」
実際の所、冒頭ノ頃でも述べたように孫四郎には他に庶兄も存在したのだが、とはいえ孫四郎のような変則的な元服でもしていない限りこの当時元服の年齢は数えで16が通例である、まだ平次郎、亮三郎共にそこには達していないこともあって、現在「兄」として所領を持つのは政忠一人といえた。まあ尤も、後に平次郎も亮三郎も当然、所領を与えられるのだが、それはまあ、まだ、未来の話。
「ははっ。……父上と兄上、どちらが統治するかはまだ考えておりませぬが、備前の福岡は抑えておきたい地にございますし、同じく、備前岡山は絶好の地に御座います。同じく、押さえておきたい」
備前の岡山も、福岡も、当然ながら要所であり、同時に繁栄している場所であった。当然ながら、守護代として入ったならば押さえておく地であり、また同時にこれを以て備前の地は山手から浜手に繁栄している場所が移った、という説もある。まあ、それは、定かではないが、事実である。
「……ふむ。なれば、どうする」
「父上には岡山を、兄上には福岡を」
「……よかろ。……宗続、政忠。異存は無いな?」
そして、宗続と政忠に重ねて尋ねる政豊。今更ながら、宗続は山名宗全の「宗」から、政忠は政豊の「政」の字から貰っている形跡が見受けられ、おそらくは重臣の中でもかなり上の立場であったと思われる。
「畏れながら、続成の勘は相当強いものにて」
そして、それに対して素直に頷く政忠。そして、宗続もまた、続成を阿呆と罵りつつも、その知恵を讃えた。
「あの阿呆めは、行動が短慮なだけで知恵自体は鋭うございますからな。承知致しました」
「これ、人前で実の息子を罵るでない。……まあ、そういうわけで、これより論功行賞に入る! まず、垣屋続成!」
そして、垣屋続成に対する論功行賞が始まった。とはいえ、それ自体は今更であり、先程までの会話を聞いていれば再確認に過ぎない、はずであった。
「ははっ」
「今更ではあるが、備前長船を与える。また、摂津守護も大儀であった。よって、姫路の湊も与えることとしよう。それと、なのだが……」
少し言葉をため、政豊は何かしら思案するふりをしていた。あるいは、本当に思案していたのかもしれないが、それを続成が知ることは生涯、無かった。
「続成、おぬし何か欲しいものはないか」
そして、政豊は続成に、運命の振り出しを行うことにした。結果的に、この政豊の質問が、続成の技術新進を目覚めさせたのだが、それは彼も、そして続成自身も知ることは、なかった。
「は……、欲しいもの、と仰いますと……」
「……質問に対して疑問に返すでない。……それとも、何もないのか?」
「い、いえ、いろいろと御座いますが、今その機会が降って湧いたので却って当惑致しました」
そして、続成が正直にそれを言ったことによって、政豊はある種の満足感と落胆を同時に味わい、そして問い直した。勿論、政豊が用意できるものには限りが有ったが、続成の願い事は、案の定というか、予想外のものであった。
「……おぬし、正直じゃのう。して、何が欲しい」
「医者が、欲しいですね」
「医者? おぬし、既に常豊の病を治したではないか。おぬし以上の名医など、この但馬には存在しまいに」
続成が欲しいもの、それは医者であった。とはいえ、続成自身が医者のようなことを可能にしており、更に言えば常豊の病を治した結果、名声を高めたこともあって本来ならばむしろ国中の名医が続成に教えを乞う方が常識ですらあった。
「ああ、いえ、言葉が足りませなんだ。……確かに、御嫡男様の病は治しましたが、当方はまだ、薬草の分別や採取方法、そして調合など、所謂本草学には疎う御座います。当方が知るは、飽く迄御嫡男様の病を治した抗生物質や、栄養学の切れ端に御座いますれば」
「……よくわからんが、それならばおぬしの名声を使えば良かろう。常豊めを治したその技法を対価として募集すれば、それこそ国中の医者がおぬしに頭を垂れると思うがの」
「……然様でございますか?」
「ああ、おぬしは一度、自身の行った所業を顧みた方がいいの。おぬしによってはたいしたことの無いことかもしれんが、他の者からすれば奇術や妖術の類いを使ったとしか思えぬことを、度々やるのでな」
それは、ある種の様式美とすら言えた。続成は、ある種の天才であり、同時に莫迦者であった。続成自身はたいしたことの無いようなことでも、巨人の肩に乗って行うそれは、紛れもない奇蹟や魔法の類いであり、それを誇らしく掲げたりせず、更には誰にでも出来ると思っている辺り、彼は正真正銘の莫迦であった。
「まあ、そういうわけでじゃ。……それならば、此方からあるものを与えるとしよう。これ、あれを持て」
「ははっ」




