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コイ  作者: 高泉 恭
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夏のむせかえる湿気がこもり、蝉がけたたましく啼く。空は目に痛いほど鮮やかな青に染まっている。その青を引き立てるみたいに真っ白い入道雲が沸き立っている。まさに夏、としか、言いようがなく日が始まって間もない午前のことだった。

浴衣の下は汗でびっしょりで、扇が手放せない。そよそよと家に入ってくる風がほんの少しの救い。


そんな暑い日に、君はタンスの裏という、風通しの悪いところに身体を壁に預けてもたれかかっている。



「僕は…あと3ヶ月…それより短いでしょうか…」



視線を天井に彷徨わせ、そうつぶやく君は、まるでこの世の人ではないようで。

現実味を帯びていないようで、かすんでうつる。

蝉がひっきりなしに鳴いている。



「その…君は、なんという病名、なのでしょうか」


「君ではないです。恭宏とお言いなさい」


恭宏。久しぶりに聞く名前だった。

東雲恭宏。彼のフルネーム。


「病名は言いたくありませんねぇ。多分三ヶ月後、死ぬ、不治の病です。それだけ知っていればいいんですよ」


この人はいつだって遠ざける。

どうして、と問いかけても、答えてくれそうではない。

それがもう、いつものことだった。それが彼だったから仕方ないと思って諦めていた。

こっちの問いかけにはひらひらかわして、決して本音を話さない。

だけど。


「だめです…話してください」


だって、君は私の恋人なのでしょう。

続けて言いたかった言葉は、僕を突き刺すような彼のまっすぐな瞳にかき消された。


「すみません、こればっかりは話したくないんです。嫌でしょうが…ごめんなさい」


そう言って、似合わないのに素直に謝り、申し訳なさそうに顔を伏せる君ーーー

そんな姿を見せつけられては、問いつめることなどできそうもない。

辛そうに唇が引き締められた。歯ぎしりが聞こえてきそうだ。

僕はどうすればいい。

苦しんでる君にどう接すれば良いのか、答えは見つからなかった。

二十年以上見てきたのにそんなことも知らないのが、情けない。


いろいろ考えた末に、僕は黙ってそばに腰掛けた。

長い沈黙が続き、結局その沈黙が破れることは無かったのだった。

それでも、お互いそばから一歩も動こうとはしなかった。

すぐそこにある体温を感じながら、どんな言葉を交わせばいいのかわからなかった。



蝉の鳴き声が脳裏に焼き付く、とてもとても暑い日のこと。

突き抜けた青空が、妙に憎たらしかった。





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