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コイ  作者: 高泉 恭
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それからというものの、僕たちは残されたと知っている時間を、出来るだけ二人で過ごすようにした。

暑くなだるような日も、大雨で吹き荒れた日も、曇天が空を覆い尽くした日も、君の隣にいた。

日々高まる愛おしさに幸せを感じる反面、とてつもない恐怖に取り込まれる毎日。

咳き込む姿を見ては心臓を掴まれ切り裂かれそうになる度、どうしようもない苦悶に襲われた。


そして僕は、この感情に名をつけたくなかった。これほど心に重くのしかかる気持ちを、簡単に言葉にしたくはなかった。言葉が決して安いものではないことは知っているが、それでも僕はそうしたくない。


利幸君。

そう言って、普段とは不釣り合いに甘えてくる彼をとても愛おしく思った。

そう呼びかけてくると、僕は彼の頭を撫で、柔く抱きしめた。

彼が僕の名前を呼ぶときは不安に駆られているということだった。


恭宏君。

幼い頃みたいに、君を名前で呼べるようになった。

ずいぶん、長い時間そばにいたのだと思い知らされる。





ひらり


桜がひとひら、僕の隣に落ちた。

薄い青色が空一面に広がって、地上を薄桃色の花びらが彩る。

これから一気に散っていくのだろう。






ぼたり


瞳からこぼれ落ちた雫が浴衣にしみを作った。

次から次へと、雫はぱたりぱたりと膝へ落ちる。






慣れたものだと思ったのに。


君がいない世界には…もう慣れたと思っていたのに。





「うっ…う、うっ、く……」





君といた日々ばかりが思い出されて僕は時々どうしようもない。


恭宏君。

あなたはあまりにも、僕の心に居着きすぎる。






ひらひらひらひらり



桜は散るーーーーー

人の涙を知らず。または、人の涙を隠すようにして。







恭宏君がいたこの世界、今はあなたが居ないこの世界を、僕は生きていく。

苦しく辛いけれど、あなたが残した言葉を頼りにして。




「僕はあなたを置いていくんじゃありませんよ。託すのです。ね、生きてください…」






一匹の鯉が大きく跳ねるーーーーー




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