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ぽちゃりーーー
鯉が小さく跳ねる。池の水面のように、視界が歪む。
嘘でしょう?
つい口をついて出そうになった言葉を飲み込んでしまうくらいには、その声はとても切なげで。悲しげで。
思いもしなかった、彼の余命宣告に驚き、唖然としてしまう。どう反応するのが正解なのかわからず、考えてみてもわからないまま、僕は咄嗟に返事することができないでいた。
雲がまた流れて、月が顔を出す。やがて月の光は地上を照らしはじめる。輪郭が再び大分と見えはじめるようになった。こうしてどれ程の沈黙が流れたのか。
ぱしゃん、ぱしゃん。鯉が二度続けて飛び跳ねる。
「き、君…戯れ事は良くありませんよ」
ようやく漏れた言葉は、馬鹿馬鹿しいものだった。
「戯れ事なんかじゃありません。ちゃんと、事実ですよ、望月君。不治の病なんだそうです。お医者様に看てもらったのですよ?」
コォ――――………
鳥の甲高い鳴き声があたりに谺する。こんな時に限って湧き出る疑問。この屋根の上を飛び渡っているのでしょうか、なんていう鳥の鳴き声なのか。どこから来たのか。
ああもう。そんなことはどうでも良い。
僕が本当に気にしているのは、そんなことではなくて。
「東雲君……それなら残りの価値ある時間を僕との雑談に裂いているわけには」
「どうして」
その一言を強く言い放つ。彼は一拍子置き、続けて言葉を紡ぐ。
「わからないんですか。あなたは今まで私の何を見てきたんです。私が無駄なことをしたがらないということは、あなたも良くわかっているでしょう!」
彼は早口でまくし立てて、きつい調子で激昂する。間もなく、ガタン!と壁を強く叩く音が耳に刺さった。
感情のままに取り乱すなんて、彼らしくもない。
そんな彼を見たことなどなかったものだから、心臓がリズムを乱してしまう。
紡ぐ声が、わかりやすいほどに震える。嫌だ、こんなに動揺している姿を見られるのは。
「…落ち着いてください東雲君。この世には言葉にしないとわからないことってあるのですよ。……君は、捻くれ者ですから」
わかるようでよくわからないのですよ、君は。
例えるならあの鯉のようですし、またあの月のようでもあります。ひょっとすると、あの夜空でさえあるかもしれない。
いいや、わかるようでもなかった。まったくわからない。
キシ、キシ、彼はこの状況に不釣り合いな落ち着いた足取りで僕に近づき、隣に座った。
「すみません、少々取り乱してしまいました。今日言いたかったことを声にさせてもらいましょうか。望月君…名前は利幸といいますよね」
そんな、当たり前のことを。今更のことをどうして確認するのだろう。
どうして、改まったように僕の顔を見つめるのだろう。
別れが時刻々と迫ってきている様を無理矢理実感させられるようで……気持ち悪い。




