↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
寄生回帰 ~他人の回帰に巻き込まれて二十二回も死んだ俺は、本物の回帰者を見つけ出して復讐することにした~  作者: Koreangaiikeru
第1章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/10

第3話 弱さ

 怒りに任せた決闘の申し込みに、周囲がざわめいた。


「こいつ、頭がおかしいのか!?」


「バルトロス様に決闘を申し込むだと?」


「おい! もうやめておけ!」


 だが、バルトロスは表情ひとつ変えなかった。


「お前と戦って、何が得られる?」


 彼は淡々と言った。


「これは決闘ではなく、ただの殺戮だ。鬱陶しいドブネズミを駆除することを、決闘と呼ぶのか? 下級冒険者の怒りに、貴重な時間を浪費するつもりはない」


 俺は剣の柄を握りしめた。


 ド(・)ブ(・)ネ(・)ズ(・)ミ(・)。


 その言葉が耳に突き刺さった。今すぐ剣を抜いて飛びかかりたかった。だが、手は動かなかった。


 剣を抜けばどうなるか、わかっていたからだ。決闘どころか、まともに剣を振るうことさえできずに倒されるだろう。彼にとって、俺は相手にすらならない。


 俺は下級冒険者で、彼は公爵家の剣騎士だ。努力や怒りだけでは埋められない隔たりがあった。


 それでも、決闘を申し込んだ。


 勝てると思ったからじゃない。復讐できると思ったからでもない。


 このまま引き下がれば、自分が本当に何もできない人間だと認めることになる気がして、どうにかして彼を引き止めたかっただけだ。


「この村はすでに半分が焼失している。これ以上、生産力を失うのは損失だ。犠牲を増やす理由はない」


 そう言って、彼は俺から視線を外し、馬車へと向かった。


 その瞬間、俺の中で何かが切れた。


 人が死んだ。家が燃えた。あの子が死んだ。


 なのに、こいつがこの村について口にしたのは、生産力の話だった。


 こいつにとって、すべては損得を計算するための対象にすぎないのだろうか。


 俺があれほど大切に思っていたあの子の死さえ、ただの損失のひとつでしかないのだろうか。


 もちろん、こいつにはこいつの事情があるのかもしれない。


 だが、今この瞬間だけは、そんな事情を理解したくなかった。


「てめえは必ず……! この俺の手で……!」


 身体が勝手に前へ飛び出した。


 何を言おうとしたのかさえ、覚えていない。


 殺してやると言ったのか。必ず復讐してやると言ったのか。


 どちらにせよ、意味などなかった。こいつに近づくことすらできないとわかっていながら、それでも俺は動いた。


 そのとき、バルトロスがゆっくりと振り返った。


「貴様の無礼は……先ほどから目に余るな」


 青い瞳が俺を捉えた瞬間、息が詰まった。


 死ぬ。死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ。


『死ぬ』


 あの剣に貫かれて死ぬ。一歩でも近づけば、こいつは躊躇なく俺を斬り捨てる。


 剣を抜く姿すら見ていないのに、俺の身体はすでにその結末を知っていた。


 動けなかった。指先ひとつ動かせなかった。


 怒りに煮えたぎっていた身体が、一瞬にして凍りついた。


 吐き気がした。心臓も肺も、内臓という内臓をすべて吐き出してしまいそうだった。


 あれほど守りたかったものを失ったというのに、目の前の男に怒りをぶつけることしかできなかった。


 そして今は、その男に剣を向ける勇気すらなかった。


 圧倒的な力の差。絶望的な無力感。


 こいつを前にして、俺にできることなど何ひとつなかった。


 そう思った瞬間、涙がこぼれた。


 怒りからなのか、恐怖からなのか。それとも、自分があまりにも情けなかったからなのか。自分でもわからなかった。


 歯を食いしばっても、震える顎を止めることができなかった。


 そのときだった。


「おおっとっと! バルトロス様!」


 野太い声とともに、広場の片隅から筋骨隆々の男が駆け寄ってきた。


 太い腕に立派な口ひげ、禿げ上がった頭。見るからに豪快で、人懐っこそうな雰囲気を漂わせている男だった。


 男は素早く俺の前に割って入り、バルトロスに頭を下げた。


「こいつは俺の弟分みたいなもんでしてね! 家が丸焼けになっちまって、正気じゃないんです! ははは、俺がきっちり言い聞かせておきますんで!」


 男は俺の背中をバシンと叩き、無理やり笑顔を作った。


「いやあ、バルトロス様。驚かせちまいましたね! ご心配なく。すぐに頭を冷やさせますんで!」


 バルトロスはしばらく男を見つめていた。


 やがて、もはや相手にする価値もないと判断したのか、興味を失ったように視線を外し、馬車へと乗り込んだ。


 再び、蹄の音が響き始めた。


 馬車が広場を去ると、凍りついていた空気が少しずつ緩んでいった。人々のざわめきも戻ってきたが、俺の耳には何ひとつまともに入ってこなかった。


 俺はその場にへたり込んだ。


 手の中の指輪が震えていた。


 いや、震えていたのは俺の手だったのかもしれない。


 ついさっきまで燃え盛っていた怒りも、そのあとに襲ってきた恐怖も、今はもうどちらも残っていなかった。


 男は大きくため息をつくと、俺の肩をつかんで立たせた。


「ほら、もういい。来い。酒でもかっ食らって、少しは気を紛らわせろ」


 穏やかでありながら、豪快な声だった。


 男は何があったのか、わざわざ尋ねようとはしなかった。ただ、ふらつく俺を支え、そのまま酒場へと連れていった。


 ◇ ◇ ◇


「村は焼けちまったが、外れにあるこの酒場だけは運よく燃えずに残ったみたいだな」


 扉を閉めると、広場の喧騒が遠のき、薪のはぜる音だけが聞こえてきた。


 そこでようやく、張り詰めていたものが切れたように、俺は力なくうつむいた。


 目元から涙がこぼれ落ちた。


 バルトロスの前では、どうにか声を張り上げることができた。


 あいつが間違っていると、自分は悪くないのだと、必死に言い張りたかった。


 男が俺の前に大きなジョッキをドンと置いた。


「泣きたいなら泣け。今はそれでいい」


 揺れる酒を見つめた。


 だが、口を開けばまた泣き出してしまいそうで、とても飲む気にはなれなかった。


 男は向かいの席に腰を下ろし、しばらく何も言わなかった。


 無理に笑顔を作っているその顔は、不思議と温かかった。


 その温かさが、かえって耐えがたかった。


 バルトロスは俺の話を聞こうともしなかった。


 俺が何を経験したのか、説明することすらできなかったし、仮に説明できたとしても、理解してくれるとは思えなかった。


 なのに、この男は何も尋ねなかった。


 俺がなぜ泣いているのか、何を失ったのかも知らないくせに、ただ泣いてもいいと言ってくれた。


「でも……」


 男は指先でテーブルをトントンと叩きながら、言葉を続けた。


「その先、どうするかは自分で決めなきゃな」




ここまで読んでくださり、ありがとうございます!


本作は自作の小説を翻訳したものです。


少しでも面白いと思っていただけたら、ブックマークや評価をしていただけると嬉しいです!


今後ともよろしくお願いいたします。


※本作は『カクヨム』でも投稿しております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。