第2話 銀色の吹雪
「……優先すべき場所?」
まるで頭を殴られたような衝撃だった。
「ここで何人死んだと思ってるんだ!? 子供も、老人も、家族も、みんな炎の中に──!」
「恥ずかしげもなく、またそんなことを口にするのか?」
彼は俺の言葉を遮った。声は相変わらず落ち着いていた。喉が張り裂けんばかりに叫んでいるというのに、彼は微塵も揺らがなかった。
「そう言うのなら、彼らを救えなかったのはお前のせいだ」
彼の視線が、俺の手に握られた指輪をかすめ、再びこちらへ戻ってきた。
「強くなかったからだ。ただ、それだけのことだ」
「……何だと?」
頭の中が空っぽになった。今すぐ飛びかかって、胸ぐらをつかんでやりたかった。
だが、それより先に、あまりにも慣れ親しんだ考えが頭の中に入り込んできた。
『強くなかったからだ』
その言葉は間違っていなかった。
俺は強くなかった。二十二回も死に続けながら、あの子を守り抜けるほど強くはなれなかった。どれだけ足掻いても炎を食い止めることはできず、どれだけ急いでも、たった一人さえ救えなかった。
そうだ。わかっていた。炎の中で内臓を吐き出しながら、とっくに思い知らされていたことだった。
「……お前、よくも……」
「いつまで自分の弱さを強者のせいにするつもりだ?」
バルトロスがため息をついた。
そのため息さえ、俺を惨めな気持ちにさせた。彼は俺の事情を尋ねようともしなければ、俺の必死さを理解しようともしなかった。そもそも、そんな必要すらないと思っていたのだろう。
『自分の弱さを強者のせいにする。』
……そのとおりだった。
あまりにも正しいからこそ、いっそ間違っていると叫びたかった。無茶苦茶な言いがかりだったなら、堂々と反論して、彼を責めることだってできたはずなのに。
俺は、彼がなぜ遅れてやってきたのか知らない。ほかの場所でもっと多くの人々を救っていたのかもしれないし、この村よりもはるかに大きな脅威を食い止めていたのかもしれない。ここを優先しなかったというだけで、彼を責める根拠などなかった。
ただ、彼が来るのが遅すぎたことが恨めしかった。
あれほど必死に待ち望んでいた誰かが、すべてが終わったあとになってようやく現れた。その事実が、どうしても耐えられなかった。
駄々をこねていた。甘えていた。
どうして俺たちを救ってくれなかったのか。どうしてあの子を助けてくれなかったのか。どうして俺が味わった地獄を、誰も止めてくれなかったのか。
だが、そもそも彼に、どうして俺を救う義務があったというのだろう?
わかっていた。
わかっているのに、口を閉ざすことができなかった。
「黙れ……お前に何がわかる……!」
指輪を握りしめた手を振り上げた。彼が間違っていると証明する言葉も、自分が正しいと納得させる根拠もなかった。
ただ、このまま黙り込んでしまえば、本当に自分が悪かったということになってしまいそうで、何でもいいから言葉を吐き出さずにはいられなかった。
「俺は、俺は……二十二回も死にながら、あの子を……!」
そこで、ふと我に返った。
ここで何を言おうとしていたんだ?
二十二回も死んだ? あの子を救うために何度もやり直した?
誰が信じるというのだ。仮に信じてもらえたとして、それが何になる?
俺がどれほど凄惨な苦しみを味わったところで、誰にも俺の痛みなんてわからない。
周囲の人間は、家族を失って頭がおかしくなった冒険者が、意味のわからない戯言を喚き散らしているとしか思わないだろう。
それでも、伝えたかった。
俺がどれほど必死に努力したのか。どれほど失敗し、どれほどの死に耐えなければならなかったのか。
何もしなかったわけじゃない。あの子を救うためなら、本当に何だってした。
その事実だけでも、誰か一人くらいはわかってほしかった。
だが、バルトロスは待ってくれなかった。
「結局、大切なものを救えなかったということだろう」
冷たい声が胸を貫いた。
うまく息ができなかった。無理に息を吸い込む必要すら感じなかった。いっそ息が止まったところで、苦しいとは思わない気さえした。
「泣き喚いてすがったところで、真実は変わらない。生き残ったのなら受け入れろ。世界はお前の涙のために立ち止まってはくれない」
やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。
やめてくれ。
……もう、やめてくれ。
頭の中で、同じ言葉が何度も繰り返された。もう聞きたくなかった。彼の言葉が正しいと認めたくなかった。
泣いたところで何も変わらない。ここで叫んだところで、何も戻ってこない。
わかっていた。あの子が死んだという事実を受け入れなければならないことも。
だが、受け入れた瞬間、本当にすべてが終わってしまう気がした。
俺はもう受け入れていた。
いや、受け入れようとしていた。
なのに、どうしてまだこんなにも苦しいんだ?
どうして何も変わらないんだ?
どうして……どうして、俺だけがこれを覚えていなければならないんだ?
「では、ここで動いている者たちは何なのだ?」
バルトロスは広場を見渡しながら、言葉を続けた。
「住む場所も、家族も、仕事場も失ったというのに、皆、必死に動いている。では、今のお前は何をしている?」
頭の中が真っ白になった。
周囲を見回さなくてもわかる。ここへ来るまでに、何度も目にしてきた光景だからだ。
崩れた家の跡から石を取り除く人々。血まみれになった負傷者の腕を押さえ、止血する人々。家族の名を呼びながらも、助けを求める声が聞こえれば、すぐさま駆け寄っていく人々。
彼らもまた、大切なものを失ったのだろう。もしかすると、俺よりもはるかに多くのものを失ったのかもしれない。
それでも、彼らは動いていた。
泣きながらも、絶望しながらも、動いていた。座り込んでいるより、今できることを探していた。
では、俺は何をしている?
俺は、俺は、俺は、俺は──
『俺は』
指輪を握りしめたまま座り込み、すでに終わったことは取り戻せないと喚いていた。自分がどれほど努力したのか、誰も知らない。誰も自分の苦しみを理解してくれないと、恨み言を並べていた。
……。
……なら、あんたは?
あんたは何をしたんだ?
「じゃあ、お前は何をしたんだよ!?」
胸の内の問いが、そのまま口から飛び出していた。
「その力で、その気品で、その剣で……いったいどこで何をしてたんだよ! どうしてこの村に誰も寄越さなかった!?」
声がかすれた。
自分が何を言っているのか、俺自身が一番よくわかっていた。無茶苦茶なことを言っているのもわかっていた。ただ目の前に現れたというだけで、彼に食ってかかっているのだ。
逃げたい。隠れたい。自分のせいではないと納得したかった。
それでも、止められなかった。
彼が正しいと認めてしまえば、これまで必死につかんでいた最後の言い訳さえ失われてしまいそうだった。
いっそ彼が悪人だったらよかった。少しでも無責任な人間だったなら、彼を恨むことで、この惨めさに耐えられたはずなのに。
悪いのは俺じゃない。悪いのは彼だ。
俺がどれだけ努力しても救えなかったんじゃない。彼が助けてくれなかったからだ。
そう……本当に、そう思えさえすれば……!
「こいつ、死にたいのか……?」
「バルトロス様の御前で、なんてことを……!」
周囲から非難の声が飛んできたが、もう気にしている余裕はなかった。
バルトロスが何か言ってくれるのを待っていた。怒るなり、俺を非難するなりしてくれて構わなかった。
ただ、せめて俺が間違っているとだけは言わないでほしかった。
バルトロスはうんざりしたように首を振り、それから冷たい笑みを浮かべた。
「お前自身、無理があると思わないのか?」
……あ。
ああ。あああ。あああああ。
その一言で、すべてが終わった。
反論したかった。悔しかった。腹が立った。今すぐ彼に飛びかかって、何かしなければならない気がした。
それなのに、口を開くことができなかった。
無理があるとわかっていたからだ。
自分が今何をしているのか、なぜここまで彼を責め立てているのか、俺自身が誰よりもよくわかっていた。
彼は俺が期待していた救い主ではなかった。そもそも、そんな人間にならなければならない義務もなかった。
ただ、自分の絶望を抱えきれず、目の前にいる強者にその重みを押しつけようとしているだけだった。
それでも……誰かを責めたかった。
二十二回も機会を与えられながら、結局何も得られずに戻ってきたこと。あの子を救えなかったこと。
そのすべてを、一人で抱え込むことなどできなかった。
だから、誰でもよかった。
俺は最善を尽くしたのだから大丈夫だと。お前のせいじゃないと。できることは全部やったのだと。
そう言ってほしかった。
俺は歯を食いしばった。護衛騎士たちは嘲るように首を振り、人々の間からもため息が漏れた。
同情だったのか、呆れだったのか、見苦しさだったのか。そんなことは、もうどうでもよかった。
いずれにせよ、彼らの目に映る俺は、貴族に食ってかかる下級冒険者にすぎなかった。
それは、間違いでもなかった。
その事実があまりにも惨めで、俺は剣の柄に手をかけた。
「決闘だ……。今すぐ……!」
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本作は自作の小説を翻訳したものです。
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