第1話 回帰の終わり
しばらくの間、呆然と座り込んでいた。
必ず見つけ出して殺してやると、確かにそう誓った。間違いなくそう思っていたはずなのに、どれほどの時間が経ったのかもわからないほど泣き続けたあとでは、その決意さえ遠いものに感じられた。
情けなかった。弱い自分に幻滅した。今さら泣いたところで何も変わらないとわかっているのに、それでも泣きやめない自分が憎かった。
もう泣くな。しっかりしろ。今はこんなことをしている場合じゃない。
何度もそう自分に言い聞かせた。けれど、そのたびにあの子の姿が脳裏に浮かんだ。
「そうだ、こんなことをしてる場合じゃない……」
何事もなかったかのように晴れ渡った空を見上げ、どうにか体を起こした。
たった一日前まで、俺が生き残ろうともがいていた時間など何の関係もないと言わんばかりに、世界は平然と回り続けていた。
俺は手の届く範囲に残っていたものを拾い集めた。持っていけそうなものといえば、奇跡的に燃えずに残っていた古びた剣が一本あるだけだったが。
剣を腰に差して、ようやく自分が何をすべきなのかを思い出した。
そうだ。
回帰は止まった。
もう酒場で目を覚ますことはない。何度失敗しようと、やり直す機会は二度と訪れない。
その事実を受け入れるまでに、どれほどの時間が必要だったのかはわからない。だが、受け入れようが受け入れまいが、世界は俺にこれ以上立ち止まる時間を与えてはくれなかった。
なら、せめて最後に確かめなければならない場所があった。
宿屋の扉を開け、外へ出た。
◇ ◇ ◇
広場は惨憺たる有様だった。
混沌という言葉以外では、とても言い表せないほどだった。焼け落ちた残骸をかき分けて生存者を探す者、崩れた家の跡で家族の名を呼びながら泣き崩れる者。そんな人々で広場は埋め尽くされていた。
血と煙と、焼け焦げた肉の臭いが入り混じり、息を吸うたびに胃の中がひっくり返りそうになった。
「水だ! 水をもっと持ってこい!」
「こっちだ、まだ生きてる! 誰か、手を貸してくれ!」
切羽詰まった叫び声が、あちこちから上がっていた。
俺も剣を持つ冒険者の端くれだ。自分にやるべきことがあるのも、ここをまともに歩き回れる人間がどれほど少ないのかもわかっていた。
それでも、足は止まらなかった。
俺が向かう場所は、ただ一つだった。
そして、そこにたどり着いた瞬間、もう立っていることさえできなくなった。
壁は崩れ落ち、黒く焼け焦げていた。屋根も床も、すでに一つになっていた。炎がすべてを呑み込んだあとに残っていたのは、砕けた木材と灰の山だけだった。
ここに何があったのか、誰かの温もりがあったのかさえ、見分けるのは難しかった。いっそ最初から何もなかったと言われてもおかしくないほどだった。
……。
そして──
その中には、あの子もいた。
俺は膝をつき、灰を握りしめた。指の間に入り込む灰の感触が、信じられないほど生々しかった。
何度もやり直した時間の中で、俺はここへ駆けつけた。炎の中へ飛び込んだ。手を伸ばした。
それなのに、今の俺の手には何一つ残っていなかった。
「……すまない」
唇が震え、声さえまともに出なかった。
二十二回も足掻いた。二十二回も死ぬ覚悟を決め、実際に死んだこともある。どうすればあの子を救えるのか考え、失敗するたびに別の方法を探した。
もう少し早ければ。もう少し強ければ。もう少し賢ければ……。
そんなことを何度も何度も考え、次こそは必ず救い出すと誓った。
それなのに、結局何一つ守れなかった。
灰を握る手に力を込めた。爪の間に灰が食い込んだが、痛みなど少しも感じなかった。
涙が落ちた。一滴、また一滴。
拭っても無駄だった。こらえようとすればするほど、喉の奥から嗚咽が込み上げてきた。
……。
とうとう顔を伏せた、そのときだった。
『……何だ?』
目を見開き、灰をかき分けた。
こんな場所に何かが残っているはずがない。そう思う一方で、それでも何か残っているのではないかという期待が、同時に胸の中へ押し寄せてきた。
指先に、冷たい金属の感触が触れた。
慎重に拾い上げたのは、首飾りに通された指輪だった。
「これは……」
見間違えるはずがなかった。
あの少女がいつも首から下げていた指輪だ。両親が亡くなる前に、最後に残してくれた形見。あの子は嬉しいときも悲しいときも、その指輪に触れていた。
あれほど強い炎も、あの子さえ呑み込んだ残酷な炎も、この指輪だけは焼き尽くせなかった。
『……こんなものまで残すくらいなら、いっそ全部焼き尽くしてくれればよかったのに……!』
わかっていた。そんなふうに考えてはいけないことくらい、わかっていた。
それでも俺は、しばらく指輪を見つめ続けた。
もしかしたら。
本当に、もしかしたら。
そんな思いがほんの少しでも残っていたという事実が、俺を再び打ちのめした。
「……俺が、守ってやるべきだったのに」
声がかすれた。その言葉を口にするだけで、喉の奥が引き裂かれるようだった。
「俺が……必ず……」
その先の言葉が出てこなかった。
何を必ずやるというのか。今さら何をしようというのか。
守ってやるという約束は、もう果たせなかった。次こそは必ず救い出すという誓いにも、もはや意味はなかった。
それでも、言葉を止めることができなかった。何かを口にしていなければ、本当に何一つ残らなくなってしまいそうだったから。
俺は指輪を胸に強く押し当てた。
その瞬間も、村は騒がしいままだった。崩れた家を片づけ、負傷者を運ぶ人々の間を、ガタガタと車輪の音が近づいてきた。
顔を上げると、雪のように白い四頭の馬に引かれた馬車が、村の入口をくぐってくるところだった。広場を埋め尽くしていた人々の視線が、一斉にそちらへ向けられた。
「おい! 道を空けろ、道を!」
輝く鎧と剣。盾に刻まれた、黄金の錨に巻きつく蛇の紋章。そして、微塵も乱れない隊列。
貴族だ。
住民たちの間にざわめきが広がった。
「あ、あの馬車の紋章……」
「まさか、ロシュバーン公爵家からお越しになったのか?」
馬車の扉が開いた。
そこから降りてきた男を目にした瞬間、俺でさえ、その男がまとう気品を否定できなかった。
長く流れる銀髪に、冷たく輝く青い瞳。無駄のない白い礼装の上には青いマントが垂れ、腰に差した長剣は、彼がただ身分の高い貴族というだけではないことを無言のうちに物語っていた。
「あのお方は……!」
彼が一歩ずつ歩みを進めるたび、周囲の喧騒が静まっていった。
「ロシュバーン公爵家の剣騎士、バルトロス・フォン・ウィンターメア様じゃないか……!」
バルトロス・フォン・ウィンターメア。
まるで悠然と吹き寄せる吹雪のような気品に、広場の空気が一変した。人々はそれぞれ身なりを整えたり、頭を下げたりし、中には恐れ多くて近づくことさえできず、ただ彼を見つめる者もいた。
威圧しようとしている様子はなかった。ただそこに立っているだけで、人々の態度を変えてしまう。そういう種類の人間。
その姿を目にした瞬間、俺は無意識に拳を握りしめていた。皮膚が裂けて血がにじみ、指の関節が今にも砕けそうなほど強く拳を握り、血走った目で彼を睨みつけた。
「……今さら現れたのか?」
怒りなのか、恨みなのか。それとも、もっと醜くて惨めな感情なのか、自分でもわからなかった。
ただ、彼が現れた瞬間、これまで無理やりつなぎ止めていた何かが、ぷつりと切れてしまいそうだった。
俺が何度死んだのか。あの子を何度失ったのか。そして最後には、どんな思いであの場所を離れなければならなかったのか。
彼は何も知らないだろう。
酒場で目を覚ますたびに何を思ったのか。あの子が死ぬ姿を目の当たりにしながら、最初に戻るたびにどうやって耐えてきたのか。二十二回目の失敗の果てにここへ戻り、膝をついた俺がどんな気持ちでいるのか。
彼は何も知らない。
それなのに、あんなにも平然とした顔で現れた。
俺はふらつきながら立ち上がった。足には力が入らなかったが、それでもどうにか前へと歩き出した。
「下がれ」
「公爵家の剣騎士様の御前だ。無礼は慎め」
護衛騎士が二人、すぐさま俺の前に立ちはだかった。それでも、俺は止まらなかった。
「なんで今さら来たんだって聞いてるだろ!」
俺の叫び声に、広場がざわついた。周囲の視線が一斉に突き刺さる。
この状況でバルトロスに食ってかかる俺は、彼らの目には家族を失って正気をなくした冒険者にしか映らなかっただろう。
バルトロスは足を止め、ゆっくりと俺を見下ろした。
青い瞳が、俺を捉えた。
ただ、それだけだった。
睨みつけることも、剣に手をかけることもしなかった。それなのに、心臓が凍りつくような感覚に襲われた。
彼の目には怒りも戸惑いもなかった。自分に怒鳴りつけている人間が何者なのか、ただ確かめているような、淡々とした視線だけがあった。
「なぜかと問うのなら──」
冷たい声が響いた。
「この村は、優先すべき場所ではなかったからだ」
「……は?」
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