↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
寄生回帰 ~他人の回帰に巻き込まれて二十二回も死んだ俺は、本物の回帰者を見つけ出して復讐することにした~  作者: Koreangaiikeru
第1章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/13

第11話 小さな泥棒③

 一つの剣先をかわすと、もう一方の刃がすかさず迫ってきた。


 ──ガキンッ! 鋼と鋼がぶつかり合い、火花が散った。痺れるような衝撃が手首を伝い、肘まで駆け上がる。


 速い。


 痩せた警備兵の剣撃は途切れなかった。反撃どころか、息をつく暇さえない。


「はあっ!」


 斜めから斬り込んでくる剣を、首をひねってかわした。冷たい切っ先が顎のすぐ下をかすめていく。


 直後、背後から重々しい気配が襲いかかってきた。体格のいい警備兵だ。


 身を低くした。太い刃が頭上の空気を切り裂いて通り過ぎ、そのままドンッと石畳を打ち据えた。跳ねた石片が頬をかすめる。


『くそっ。やっぱり二人を同時に相手にするのは無理があるか……!』


 再び痩せた警備兵の剣が飛んできた。横に足をずらして受け流し、そのままセイント・ポールを振るう。


 届かない。ほんのわずかな差だった。


『やっぱり侮れないな……』


 ただ速いだけの剣ではない。腰、肩、手首の動きが淀みなくつながり、こちらの隙を正確に突いてくる。一度でも対応を誤れば、それで終わりだ。


「チッ……!」


 舌打ちした。呼吸が徐々に荒くなっていく。このままでは体力勝負で押し負ける。


「ほお、駆け出しのくせに、なかなか粘るじゃねえか。キシシ……だが、結果は見えてるぜ」


 ──再び刃がぶつかり合った。


『こうなったら……!』


 セイント・ポールにマナを集中させた。指先から始まった感覚が腕を伝って流れていく。やがて、剣身に青い光が宿った。


 ──!


 痩せた警備兵の表情が強張った。慌てて自分の剣にもマナを込めようとしたが、もう遅い。


「はあっ!」


 二本の剣が正面から激突した。痩せた警備兵の腕が大きく弾き上げられる。


 バキィッ──!


 鋭い破裂音とともに、男の剣が粉々に砕け散った。


「なっ……!?」


 驚愕に歪んだ顔が目に入ったが、それを味わっている余裕はなかった。


 体格のいい警備兵が隙を狙って剣を振り下ろしてきた。


 体をひねって刃をかわし、そのまま足を振り上げて腹を蹴り飛ばす。


「ぐはっ!」


 巨体が石畳の上を転がった。


『よし、一人は……!』


「!?」


 ──その瞬間、右肩に鋭い痛みが走った。


 手から力が抜けた。セイント・ポールが滑り落ち、ガシャンと音を立てて地面を転がった。


「くっ……!」


 反射的に振り返ると、痩せた警備兵が砕けた剣の柄を握りしめていた。根元に残った刃にマナを込め、剣気を飛ばしたらしい。


「キシシ……油断したな……!」


 肩を押さえた。指の間から熱い血が流れ落ち、鉄臭い匂いが鼻をついた。


『くそっ……』


 ドン、ドン。


 重い足音が聞こえた。顔を上げると、体格のいい警備兵が再び立ち上がろうとしていた。口元には血がつき、怒りで充血した目が俺を射抜くように睨みつけている。


「終わりだ!! 雑魚野郎!」


 男が巨大な剣を振り上げて叫んだ。


 歯を食いしばり、セイント・ポールに向かって手を伸ばした。


 肩が疼く。腕が思うように動かない。


 間に合わない。遅い。遠い。届かない──!


 ──!!!!


 そのとき、巨大な石が空を切って飛んできて、体格のいい警備兵の脳天に直撃した。


「げはっ……!」


 鈍い音とともに男は白目を剥いて倒れた。巨体が石畳に叩きつけられ、土埃が舞い上がる。


『な、何だ……?』


 考えるより先に体が動いていた。


「はあっ!」


 残った警備兵の胸を蹴り飛ばした。


「ぐっ、ぐううっ……!」


 男は倒れた仲間のそばまで吹き飛んだ。腹を押さえて呻いているのを確認して、ようやく俺は息を吐いた。


「はあ……はあ……」


 肩からはまだ血が流れていた。傷口を押さえながら、石が飛んできた方向を見上げる。


 ……。


 風に揺れる金色の髪が見えた。城壁の上に少女が立っていた。壁の端にぶら下がるようにして、こちらを見下ろしている。


『あいつが石を……』


 あの小さな体で、あんな大きな石を投げたのか。なかなかやるじゃないか。


 俺が呆然と見つめていると、少女は手を振りながら叫んだ。


「今から降りるから、受け止めて!」


「はあ!?」


 返事をする暇もなかった。


 少女はためらうことなく、城壁から身を投げた。


「お、おい! お前、正気か──!」


 慌てて両腕を広げる。


 ──!


「うぐっ……!」


 衝撃で尻もちをついた。少女まで受け止めたせいで、全身が痛む。


『こいつ、怖いもの知らずにもほどがあるだろ……!』


 幸い、村の内側にある低い城壁だったため、大した怪我はしていないようだった。少女は何事もなかったかのように立ち上がった。体についた埃を十分に払ってから、俺に銀貨袋を差し出した。


「はい、これ」


 さっき警備兵たちに奪われた袋だった。


 俺は手を伸ばしかけて、ふと少女の顔を見つめた。


 陽を背にした少女の髪が風に揺れていた。逆光に隠れた顔は、淡い光に包まれているように見えた。


『……あれ?』


 気づけば、俺は無意識に手を伸ばしていた。


 少女が何かを言っているようだったが、不思議と声が耳に入ってこなかった。ただぼんやりと、その顔を見つめていた。


「?」


 少女が首をかしげた。


 そこでようやく我に返った。


「あ、いや。それはお前が持っておけ」


「……え? そんなわけにはいかないよ! こんなに助けてもらったのに」


「俺はまた稼げばいい。その金でお母さんを助けてやれ。それと、もう二度と盗みはするな」


 少女は何かを言いかけて、口を閉じた。目元が赤くなっていたが、とうとう泣き出すことはなかった。


「ゴホッ……!」


 そのとき、倒れていた痩せた警備兵がふらつきながら立ち上がった。男は気絶した仲間を肩に担ぎ上げると、俺たちを睨みつけた。


「お、お前ら……ロシュバーン家が絶対に許さねえからな! 覚悟しておけ……!」


 脅すときだけは威勢がよかったが、体は今にも倒れそうなほどふらついていた。結局、男は仲間を引きずるようにして逃げていった。


 その後ろ姿を眺めていると、少女と目が合った。


「ぷっ……」


 俺たちは同時に吹き出した。


「ぷははは!」


 あまりにも間抜けな姿だった。おかげで張り詰めていた緊張も、少しは和らいだ。


 少女はポケットから小さなハンカチを取り出し、俺の肩に当てた。使い込まれ、ところどころ擦り切れていたが、きれいに手入れされているのがわかった。


「くっ……もう少し優しくしてくれ」


「我慢してよ。冒険者になったなら、これくらい耐えなきゃ」


 少女は慎重にハンカチを結んだ。布が傷口を押さえると、痛みが少し和らいだ。


「これで少しはマシになった?」


「ああ。ありがとう」


 俺は立ち上がった。


「さて、家に帰ろう」


 少女も立ち上がったが、すぐに足を止めた。


「でも……その前に、やることがあるんだ」


「やること?」


 少女は答える代わりに、俺の服の裾を引っ張った。


 ◇ ◇ ◇


 たどり着いたのは、さっき少女が果物を盗んだ店だった。日が傾き、店先にも赤い夕焼けが差し込んでいた。


 少女は入り口の前で少しためらってから、おずおずと口を開いた。


「あ、あの……」


 しばらくして扉が開き、果物を売っていたおばさんが顔を出した。おばさんは少女に気づくと、目を大きく見開いた。


「お前は……さっきの泥棒?」


 少女はびくりとしたが、すぐにうつむき、持っていた小銭を数枚差し出した。


「ごめん……盗んだ分を返しに来たんだ。もう二度としないから」


 おばさんは小銭を受け取り、少女をしばらく見つめていたが、やがてため息をついた。


「みんな大変なんだよ。火事で家まで失ったんだからね……。それでも、盗みはいけないよ。わかった?」


「うん……」


「もう二度としちゃダメだよ。それに、本当に食べるものがないなら、せめて相談してみな。ご近所同士、助け合って生きていかなきゃね」


 少女は何度も頭を下げた。おばさんの温かい言葉に胸が詰まったのか、目元を拭う姿が見えた。


 俺は黙って少女の頭に手を置いた。


「帰ろう」


 ◇ ◇ ◇


 店を出て少女の家へ向かう途中、ふと気になることが浮かんだ。


「ところでお前、盗みはどこで覚えたんだ?」


「わかんない。小さい頃から、ほかの人に気づかれないように動くのが得意だったんだ。もともとそういう体質なのかも」


「そんな才能があるなら、結構使えそうだな」


「確かに、さっき銀貨袋を盗んだときも気づかなかったでしょ~?」


 少女はくすくすと笑い、憎たらしい顔をした。


「この野郎……」


 そんなやり取りをもう少し続けるうちに、いつの間にか少女の家に着いていた。


 崩れた塀に、火事の跡が残る屋根。相変わらず粗末な家だったが、少女は慣れた様子で玄関の前に立った。


「今日のこと……本当にありがとう。心から感謝してる。それじゃ、またね!」


「ああ。気をつけて帰れよ」


 俺は手を振って背を向けた。


「あっ、ちょっと待って!」


 少女の声に足を止め、振り返った。少女が何かを手に握ったまま、こちらへ駆け寄ってきた。


「これ、受け取って」


 俺は何気なく手を差し出した。


「……!」


 それを目にした瞬間、目を見開いた。


 ひんやりとした金属の感触。小さく硬いプレート。銀で精巧に細工された表面には、見覚えのある紋章が刻まれていた。


 これは……。


「……ロシュバーン家の騎士章!?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。