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「7月91日」  作者: S


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7/8

【第六章】君が隠していた残り時間

誰にでも、言えない秘密がある。


大切な人を傷つけたくないから。

失いたくない時間を守りたいから。


星が笑顔の奥に隠していたもの。


そして、蓮が初めて知る本当の意味。


「7月91日」という存在しない日が、なぜ二人に必要だったのか。


止まっていた時間が動き出すとき、二人の夏は新たな形へ変わっていく。

夏祭りから数日が経った。


あの日の花火は、今でも鮮明に覚えている。


夜空に咲いた光。


星の笑顔。


「来年も一緒に見ようね」


あの約束。


僕は、本当に来年もその日が来ると思っていた。


何の疑いもなく。


「蓮くん」


中庭のベンチで、星がいつものように笑う。


「今日は何を考えてるの?」


「別に」


「嘘」


「……」


「最近、蓮くんの嘘が分かるようになってきた」


そう言って笑う星。


でも、その笑顔を見ていると、胸の奥に小さな違和感が残った。


あの日からだ。


夏祭りの日。


星が花火を見ながら見せた、あの寂しそうな表情。


ずっと気になっていた。


「星」


「ん?」


「何か隠してるだろ」


一瞬。


本当に一瞬だけ。


星の表情が止まった。


でも、すぐに笑顔へ戻る。


「どうして?」


「分かるから」


「何が?」


「幼馴染みだから」


その言葉に、星は少しだけ目を伏せた。


「……そっか」


風が吹く。


蝉の声だけが響いていた。


「蓮くん」


星は静かに言った。


「もしさ」


「うん」


「大切な人が、ずっと隠し事をしていたら……許せる?」


突然の質問だった。


「内容による」


「そっか」


星は小さく笑った。


「蓮くんらしい答え」


その日の帰り道。


僕は偶然、ナースステーションの前を通った。


そこで聞こえた会話。


「白石さんの状態ですが……」


足が止まる。


「もう時間がありません」


世界の音が消えた気がした。


時間がない。


その言葉だけが、頭の中に残った。


「……星?」


気づけば、僕は走っていた。


星の病室。


扉の前で立ち止まる。


中から声が聞こえる。


「先生」


星の声。


「お願いします」


「蓮くんには、まだ……」


「本当にいいんですか?」


「はい」


胸が締めつけられる。


僕は静かに扉を開けた。


「……蓮くん?」


星の顔から笑顔が消えた。


「何してるの」


声が震える。


「何を隠してるんだよ」


沈黙。


長い沈黙。


星は目を逸らした。


「……聞いたんだ」


「時間がないって何?」


答えてほしかった。


嘘でもいい。


違うって言ってほしかった。


でも。


星は、静かに笑った。


「蓮くん」


その笑顔が、今までで一番悲しかった。


「私ね」


少し間を置いて。


「ずっと、時間が欲しかったんだ」


胸が痛む。


「だから、7月91日を作ったの」


「……」


「普通なら終わってしまう夏を、少しでも長くしたかった」


目の前の星が、急に遠く感じた。


いつも笑っていた。


何でもないように振る舞っていた。


でも本当は。


ずっと一人で抱えていた。


「なんで言わなかったんだよ」


声が震える。


「言ったら、蓮くんがまた止まっちゃうから」


「……」


「蓮くんは、自分の未来を失ったと思ってた」


星は優しく笑う。


「でも違うよ」


「失ったんじゃない」


「まだ、途中なんだよ」


涙が落ちた。


自分でも驚くほど、自然に。


「勝手に決めるなよ……」


「え?」


「一人で終わらせるなよ」


星は何も言わなかった。


ただ、小さく笑った。


「やっぱり、蓮くんは優しいね」


その言葉が、胸に刺さった。


その夜。


僕は初めて理解した。


7月91日という名前は。


終わらない夏を願うためじゃない。


限られた時間の中で、最後まで笑うためにつけた名前だったのだと。

第六章まで読んでいただき、ありがとうございました。


今回は、物語の中でも大きな節目となる章でした。


これまで明るく振る舞っていた星が抱えていた秘密。

そして、蓮が初めて知る「7月91日」に込められた本当の意味。


二人が過ごしてきた時間は、ただ長く続けばいいものではなく、一日一日をどう大切に生きるかということだったのかもしれません。


ここから物語は、残された時間の中で二人が何を選び、何を残していくのかという展開へ進んでいきます。


蓮と星が最後まで紡ぐ夏を、見届けていただけたら嬉しいです。


感想や応援、ブックマークなどが執筆の励みになります。


次章もよろしくお願いいたします。

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